真田ピロシキ

アンネ・フランクと旅する日記の真田ピロシキのレビュー・感想・評価

4.0
アンネの日記はもしかしたら大昔に読んだことがあったかもしれないが全然覚えておらず、イマジナリーフレンドのキティーとは対照的に結末は知っているが途中の話はよく知らないで見るという形になった。

アニメーションとして目を惹くのはインクが線状に集まってキティーの体を形成し逆にほどけていく様子で、凍った川をスケートで滑る滑らかな動きなども心地良くてこれだけでも一定の面白さが得られる。音楽は非常にムーディーなロックサウンド。アンネの想像するナチスをやっつけるスペシャル軍隊がイマジネーション豊かなわちゃわちゃ感に溢れているかと思えば、いなくなったユダヤ人同級生を乗せて(死の谷を?)走る列車や長身で骸骨のような同じ顔をしたナチスのようにホラー染みた表現もあって多彩で見てて飽きない。

しかしこのアニメは多くの人が知ってる歴史上の人物アンネ・フランクの話なのでファンタジーではなく史劇的な側面の方が強い。だが80年近くが経っているともうそれは半ば伝説の人物化していて、チンピラが夜中にアンネの家に石を投げつけて「いつまで隠れてるんだ100年か?」と叫んでいたのはこの悲劇も「もう聞き飽きた」かと言うように風化しつつある表れ。生前のアンネを知るキティーに取ってはそんな悲劇ばかり持ち上げられるのも違和感があり、橋や学校に名前を使って商標のように消費されるのも違う。そんな神格化から結構モテモテ少女だったらしく、映画好きで想像力豊かなアンネの俗な身近さを取り戻そうとする。脱伝説の試み。体験者がいなくなりつつある第二次世界大戦の語り方の模索を感じる。

それと本作は昔話に留めず現代の自分事としてアンネを生かそうとしてて、口ではナチスに命を奪われたアンネを尊重しながら、現在の難民を強制送還させようとしている実際はナチスとそんな変わらない残酷なことをしようとしている社会にキティーがアンネの言葉と意思を訴えかける。そうでなくてもホロコースト否定論者のような歴史修正主義は未だあるわけで、日本の某ゆるふわ戦争アニメのような「今の私たちには関係ありませんもんねー」というような態度にはならない。こういう今ある現実に根差した描写ができるのが強み。キティーの言葉に心を動かされる市民の姿にリアリティを持てるのも羨ましい。普通の日本人様なんか「黙れ盗人女」「不法難民を擁護する反日左翼!」「入管万歳!」とブーイングする姿の方が想像しやすい。その難民コミュニティや親しい不良少年少女の行儀の悪い猥雑さも魅力の一つで、最近海外の評価高いアニメを見た時は毎回のように既に日本アニメは奥深さの点では遅れをとっている気持ちを覚えさせられる。