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ケイコ 目を澄ませてのdojiのネタバレレビュー・内容・結末

ケイコ 目を澄ませて(2022年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

ボクシング映画はボクシングを選び取った主人公が情熱を注ぎ込む姿を描くことが多いけれど、この映画のケイコはなぜボクシングをはじめたのかが描かれず、打ち込んでいるようでそのことにも迷いがある。なぜそんな姿を描くんだろうと思っていたけれど、徐々に三浦友和をはじめボクシングジムで働く人々やそこで練習にはげむひと、音楽をつくる弟とそのガールフレンド、ホテル清掃のアルバイト先の同僚と先輩など、ひとびとの毎日が描かれていくうちに、これはあくまで人生のうちのただ一瞬を切り取った、ただそれだけの話なのだと思った。ボクシングに人生を捧げるかどうかは重要じゃなくて、試合の勝ち負けもそこまで切実ではない。迷いながらたまたまいま目の前にあることに力を注ぐこと。ジムをたたむ三浦友和の姿からも、彼がずっとそうしてきたことを感じさせる。良い時もあればわるい時もあって、勝つこともあれば負けることもある人生を、ドラマチックに描くことに怠けることなくそのまま描くこと。それが逆説的にドラマチックで、なにより映画的になるということを、この映画は静かに証明しているように感じた。観終わったあと、いつもよりひとの少ない新宿の喧騒のあいだにある街の音が耳に飛び込んできて、きょうもあしたも、やらなきゃいけないことをやろうと思えた。
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