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ケイコ 目を澄ませてのnt708のネタバレレビュー・内容・結末

ケイコ 目を澄ませて(2022年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

怒涛の締切ラッシュで映画館から随分足が遠のいていたのだが、少し余裕が出てきたので、同僚にずっとおすすめされていた本作を鑑賞。もう素晴らしいの一言。

人から勧められた作品は往々にして期待値を上回らず、残念な気持ちになることも多いのだが、そんなことはまったくなかった。

まずシナリオが素晴らしい。今までの作品の多くが描いてきた「耳が聞こえないこと=ハンデ、可哀想なこと」、あるいはその反対で「耳が聞こえないこと=他の人にはない特別な才能」という公式をインタビューの中で早々に否定し、ケイコも他の登場人物と対等であることを前提とする。そのうえで、彼女なりの葛藤を描いているから感情移入がしやすい。

個人的に印象的だったのが、女子会で手話をしているシーン。字幕を入れて会話の内容を観客にわからせても良いところをあえて字幕を入れない。何となく話している内容はわかる気もするが、わからない気もする。彼女たちが普段からあのような経験をしているということを耳の聞こえる側から疑似体験させるシーン構成には作り手の細部に対する配慮が感じられる。

演出においても随所に印象的なショットが見られた。ファーストショットとラストショットはもちろん、職質のあと、高架の陰で顔が見えないままこちらに向かってくるケイコのショットが強く頭の中に残っている。ケイコがあのとき抱えていた葛藤は、わかるようでわからない。本作において終始漂っていた一言では表せない感情の移ろいが象徴されているようなショットだったように思う。

こういう作品と出会えるからやはり映画館へは行かずにいられない。次の締め切りを済ませたら、映画館通いを再開したいものだ。
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