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N号棟のnetfilmsのレビュー・感想・評価

N号棟(2021年製作の映画)
3.7
 寝れない眠れないと言いつつ、それはTV受像器を付けっぱなしでかつ、その真ん前でソファーになんか横になるからだと言いたくなったものの、モラトリアムにどっぷり浸かったこの世代特有の症状としてしばしば「不眠」は起こり得るらしい。女子大生の史織(萩原みのり)は夜の眠りが浅く寝付けず、授業中に微睡んだかと思えば、柱の影に隠れ意を決して昔の彼氏に「今夜泊りにおいでよ」なんてうっかり声を掛ける少女だが、どうやらその不眠の症状は深刻らしく、処方された眠剤すら効かなくなっている。そんな朦朧とした状態にも関わらず、彼女は元カレとその彼女とのロケーション探しに帯同すると言い張って聞かない。彼女が団地を訪れたのか、それとも団地が彼女を誘き出したのか定かではない団地は四角四面の綺麗な長方形を描きながら、ひっそりと不気味に静まり返る。佐々木靖之のフレーム設計はこの怪しい長方形の物体を折り目正しくフレームの線と平行に描く。それは蜂の巣や蟻の巣のような自然の美しさに比類するような人工美を誇るのだ。

 当初は黒沢清や中田秀夫の世界観を拡張したようにしか見えなかった(要するにJホラー以降)のホラー映画は、魔獄の道先案内人である諏訪太朗が出て来た辺りで確信に変わるものの、何か違和感のようなものものも相変わらず停留し続ける。ヒロインの危うい道行をギリギリこちら側の世界に留めんとする存在が啓太(倉悠貴)だとすれば、なぜ彼の傍らにヒロインとは別の真帆(山谷花純)を配置したのか?それは団地の中枢に入り込んだ時点で露わになるのだが、要するにアリ・アスター『ミッドサマー』のオマージュなのだ。後藤庸介は隔離された村のような閉鎖的空間を都市に現出させるために「団地」に置き換え、ここに住む人々の奇妙で曰くありげな連帯を「オカルト」ではなく、「カルト」な事象で紡ごうとする。ここに今作の圧倒的なオリジナリティは在る。

 史織ははなから霊的な事象の存在を信じない。つまり霊的な事象を信じる主人公及び登場人物たちを前提として形作られたJホラーがここでは無価値となるのだが、イカサマ師然とした筒井真理子の所業が明らかになるのかと思えば、かえって存在感を増す中盤以降の書き込みが素晴らしい。女王蜂にとっては次世代の女王蜂である史織との邂逅が一世一代の大立ち回りであるというアクロバティックな過程が非常にユニークだ。
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