【単なる肉のかけら】
『オンディーヌ』も『ビザンチウム』もイマイチだなあ…と思いながら、久しぶりに本作をみ直しました。N・ジョーダン監督作、みた中では一番好きです。
性差を忘れそうになる愛の迷宮に酩酊。しかし溺れきらないさじ加減にかえって余韻。
IRAによる英国兵誘拐事件にはじまり、敵兵同士一瞬の友情、そして死と愛の伝言へ…。
まず萩本欽…じゃなかったスティーヴン・レイ演じるファーガスが面白い。優しい人物ですが、興味深いのは、実は信念皆無らしいのにIRAをやっていること。おかげで物語の先が読めなくなる。
で、彼の「鈍感力」が前半のポイントですね(笑)。だって気づくだろあの秘密には。例えばステージでの手を見りゃスグわかるはず。しかしアイリッシュであるファーガス、あれを知った時のうげげ反応を見るとカトリックの家で育ったのでは?
これに絡み今回気づいたのですが、冒頭の事件での緊迫した合間、ジョディとファーガスとで触る触らないの「チンポ騒動」が起こります。爆笑シーンですがここでジョディが「単なる肉のかけらさ!」と叫ぶんですね。これ実は、後半の大切な伏線になっている。思い切り感心しちゃいましたよ。
そして問題のディル役ジェイ・デヴィッドソン!巧く使いましたよねえ。モデルで映画は初出演。でなきゃこの仕掛けは無理ですが、演技力含め彼女の曖昧さが本作の肝。その魅力にシンクロできるほど、作品の楽しみがブラックホール的に深まる仕組みになっています。
私などはちょっとヤバイくらい彼女に心奪われました。艶やかスタイルだけでなく、逆『めまい』にされ心乱れるところなど、本人修羅場でもあのコス含め妙に可愛い!
…最後の「縛り」を仕掛ける心情は唐突でしたけどねえ。女王様気質も隠し持っていたのだろうか。
因みに、ジェイさんは本作でアカデミー助演賞にノミネートされましたが、これ、アフリカ系イギリス人としては初の快挙だったそうですね。
で、一方の猛女ジュードに真性女王ミランダ・リチャードソンを配する絶妙なコントラスト。彼女が脅威としてもエロスとしても劇薬のごとく効いている。
本作、ふたつの激情に分離した女に翻弄され、幸福な不幸に陥る男の変化球ノワール、とも言えそうです。
テーマソングとも言える「クライング・ゲーム」をボーイ・ジョージに歌わせたことも技あり!と感心しましたね。「When A Man Loves A Woman」で幕を開け、「Stand by Your Man」で閉じる選曲も微笑ましくて、そういえば公開当時サントラ買って、繰り返し聴いたものでした。
<2014.5.3記>