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小さき麦の花のkabcatのレビュー・感想・評価

小さき麦の花(2022年製作の映画)
4.1
ほとんど事前情報がないまま鑑賞したが、家族から虐げられ、厄介払いのように結婚させられた男女が、村のなかでももっとも弱い立場でありながら、他人に借りを作らず誠実に働き、次第にしっかりした暮らしを確立するようすを淡々と紡ぐ美しいカメラワークに魅了され、133分という長さも感じなかった。

主人公のヨウテイを演じているのはおそらく素人のひとだろうと思ったら、やはり監督のおじさんで実際に農業に従事する方だそうである。これまでも親戚や友人たちと自分の故郷を舞台にした映画を撮り続けているそうで、そのあたりも含めてジャ・ジャンクーの作品に通じるものを感じた。

とはいえ、ここにはジャ作品のような殺伐とした空気はなく、一見静かで穏やかな風景が映される。お互いをいたわり、小さな動物たちを大切にし、自然をうやまう二人は詩的といえるような美しさ(ひよこを育てる箱から漏れる光のシーンや水辺で休むシーンなど)で描かれるが、同時にもろい存在であることも示されており、空き家がある日突然壊されるようにかれらの生活も一瞬にして崩壊する。そこにこの映画が単にやさしいだけの内容ではない、現実をとらえた作品であることがわかる。

ただ結末のヨウテイの扱いがとても不自然に思えた。おそらく当初はクイインのあとを追わせるはずだったのだろうが、強制的に変更させられたことをほかの人の感想で知った。監督としては不本意だと思うけれど、それでもこの作品を観ることができてうれしかった。ジャ監督とともに応援したい。

ヨウテイ役のウー・レンリンはけっしてフォトジェニックなひとではないが、農作業のシーンはリアリティがあり、画面のなかで大きな存在感を示している。一方クイイン役のハイ・チンはベテランの女優さんだそうだが、演技くささを感じさせず、ウー・レンリンとのやりとりも絶妙のバランスだった。

夫婦とずっと一緒に暮らすロバもかわいらしくて印象的だった。ロバの出てくる映画には良作が多いと思うのだが、この作品もまたその一つといえる。なかなかの芸達者です。
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