にょいりん

小説家の映画のにょいりんのレビュー・感想・評価

小説家の映画(2022年製作の映画)
4.0
この映画は退屈だけど、心地良い。
それは「物語」が中心ではなく、会話や仕草によって登場人物達の過去や画面の外にある物語がうっすら見え隠れし、根本にユーモラスさがあるからだろうか。画面内の「物語」は、ありえないぐらいの偶然が重なりスランプに陥った小説家と女優が映画を作る事になるのだが、そこにはまったく表現としての「物語」を感じられない。それは会話の舞台を変える為の装置でしかない。
小説家と詩人の関係、酒を飲む事を禁じる陶芸家の夫と女優の関係、カフェの外にいた少女と女優の関係、2人が自主制作する映画の制作風景等々、画面外にはドラマチックそうな物語があるが、この映画はそんな物語達への参照先が無いインデックスだと思う。それを投げっぱなしと捉えるかは求めるモノの違いなだけだろう。

終盤に小説家と女優が作った自主映画を女優が鑑賞するシーンがあるが、その映画の内容がホン・サンス監督から私的パートナーでもある女優役キム・ミニへの愛のメッセージになっていて、切なくもグロテスクななんともいえない感情になった。
自主映画を鑑賞した後の女優の表情がとても不機嫌そうだったが、そこにいるのは劇中の女優なのか、それともキム・ミニなのか。
物語は映画の外に広がってゆく。