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苦い涙のいののレビュー・感想・評価

苦い涙(2022年製作の映画)
4.3
ピーター・フォン・カントの苦い涙


始まりも終わりもファスビンダーで、オゾンがどれほど敬愛の念を込めて今作を制作したのかが、驚くほどよく伝わってくる。ファスビンダーを知ってから日が浅い新参者にもかかわらずアタシは(しかもオゾンも1作しか観てなかったのに)、すっかり知った風に心を揺さぶられてしまった。この作品を“翻案”と言ってよいのかどうかはわからないけれど、改変は悉く成功している。1972年のケルンが舞台だけれど全篇フランス語、それはわたしとしてはオケ!です。ファスビンダー作品の本質はまるごと尊重しながらも、より軽やかにより優美により大胆に、そしてより滑稽にバージョンアップした作品だと思う。ユーモアというより滑稽といった方がしっくりくる。その滑稽さも軽やか。この滑稽さは誰もにとっても心当たりのあるものかもしれない。


この作品単体でも面白い(と思う)。でもわたしにとっては、「ペトラ・フォン・カンテ」とそれほど日を置かずに今作を観ることができたのは幸運だった。この作品は、「マリア・ブラウンの結婚」を観ている方にとっても味わい深いものとなると思う。


主人公ピーターを演じたドゥニ・メノーシェの名演技は必見。最後に映ったファスビンダーの写真から、ファスビンダーがもっと生きて年を重ねていたら、風貌はこのドゥニ・メノーシェのようになっていたかもしれないと想像した。イザベル・アジャーニみるのは久しぶりだったな。主人公ピーターが一目惚れしてしまう青年アミールを演じたハリル・ベン・ガルビアにはこれから注目していきたい。ピーターはアミールを支配・所有したかったけど、それが叶わないから手に入れたいと必死。ラストはより滑稽になり、でもそれがなんとも味わい深い。助手のカールは台詞がなくても雄弁だった。そして、ハンナ・シグラの登場。「ペトラ・フォン・カンテ」「マリア・ブラウン」とのつながりにも感無量。なんて粋なキャスティングなんだ
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