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愛と激しさをもってのSPNminacoのレビュー・感想・評価

愛と激しさをもって(2022年製作の映画)
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親密さは諸刃の剣。ジュリエット・ビノシュとヴァンサン・ランドン2人だけで過ごす穏やかに親密な時間から、次第に複雑な人間関係がじわじわと炙り出されていく。ビノシュの元恋人でありランドンのビジネスパートナー(グレゴワール・コラン久々観た!)、ランドンの母親と前妻との息子、過去の犯罪。それぞれはバラバラでありながら深く結びついたまま。
扉の隙間から顔を出して夫ランドンにしつこく尋ねるビノシュ。ベランダから、または窓を隔て夫をこっそり観察するビノシュ。モニター越しのインタビュウ。お互いに限られた視界からは窺い知れないことがある。平穏な夫婦生活の水面下にある不安とパンデミック、息子の将来、遠くレバノンの情勢が「見えない危機」としてシンクロする。
距離的物理的な親密さ、精神的親密さ、身体的親密さ、親密であることの緊張感を映し出すクレール・ドゥニ。マスクは親密さを表す記号として物語に取り込んであり、再会した元恋人同士はノーマスクで予め気を許した関係だ。だが親密さを求めたり求められることは、呪縛でもある。ランドンは元ラグビー選手で元受刑者であることに、ビノシュは過去の関係に、息子は肌の色に、ランドンの母は孫の世話に囚われていて、みんな後ろめたい。その重さから逃げるのは裏切りか、解放か。
男女の修羅場が嫌にリアルだった。親密さを構築するにはコツコツと努力が要る(ビノシュとランドンのやけにお互いを気遣った会話!)し、それを手放すのにはよほどの勇気が要ることがよくわかる。だからパンデミックとか物理的破壊とか、不可抗力しかないんだよね。でも、また違う形で親密さは形成される。スキンシップのなかった父子がタックルで初めて接触するように。
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