図師雪鷹

家をめぐる3つの物語の図師雪鷹のレビュー・感想・評価

家をめぐる3つの物語(2022年製作の映画)
5.0
ある呪われた家の始まりからそれ以降を描く3つのショートストーリー。全てストップモーションアニメで組み立てられている。
ダークコメディということで、人形で不気味さが出せるかは不安だったが、実際見てみるとかなり出せていたと思う。



それぞれのあらすじと感想↓

1.内側で聞こえて紡がれるウソ(過去)

《小さな家で暮らす貧しい一家がいた。家族構成は、父親・母親・娘(少女と乳児)。
自分の貧乏さにコンプレックスを抱いていた父親は、あるとき、とある建築家から人生が変わるような誘いを受ける。
それは、今住んでいる小さな家を手放してその建築家が築く家に住むことだった。無料で。
だがこの家、何かがおかしい…どうやら、住人は4人だけではないらしい。それに気づいているのはもうすぐ9歳になる娘だけ。父親・母親は娘たちを放置して、おのおの『仕事』を始めて…。》

3つの物語の中で一番そつなくやっているのはこの話かもしれない。不気味さや閉塞感の描写が素晴らしい。
主人公の少女にとって、その家は『home』ではなく『house』だったのだろう。
少女がhomeを失う姿には非常に心を痛めた。
この作品のテーマの一つに『執着』がある。自分の欲求を満たせる場所に行けるのは良いがそこに執着することで人間として劣化してはいけないのだ。そんなことをしていたら、自分もいつかダッセェ服を着せられることになるかもしれない笑


『ヴァン・ジョンベック氏(その建築家)は家具もデザインされました』
↑まさかこのセリフがあんな結末を示唆しているとは…



2.敗北の真理にたどり着けない(現代)
《ヴァン・ジョンベック通りにある大きな家をリノベーションするネズミの獣人が主人公である。彼がリノベーションする目的はその家を売り出して儲けることである。
だがその賭けはなかなか上手くいかない。その家に住み着いた害虫はなかなか駆除出来ないし、資金を借りた銀行からはひっきりなしに電話がかかってくる。
そんな中、不気味だが家を買ってくれそうな丸いネズミと細長いネズミが話しかけてきて…》

⚠️⚠️⚠️虫注意⚠️⚠️⚠️
虫が苦手でもない自分でも割ときつかったからもし苦手な人ならこれはちょっと…と思ってしまう。
でもそこはホラーと割り切って貰えると良いのかもしれない笑笑
3つの中で一番笑えるのも事実。
笑える虫地獄?いや、むしろ虫ダンスパラダイス??笑

主人公にとってはあれがハッピーエンドなのかもしれない。めんどくさいことから解き放たれた感はあるが失ったものも大きすぎる。そこがまた面白い。

3.もう一度耳を傾けて 太陽を目指して(未来)
《一つの家(アパート)がポツンと立っている。洪水が原因で周りの建物は全て沈んでしまったからだ。その家に住んでいるのは猫🐈獣人の管理人のローザと家賃を払ってくれない住猫人2匹。周りの人達はみんなどこか遠くへ行ってしまった。それでも、ローザは家族と共に暮らしたこの家をもっと素晴らしい場所にして人をたくさん呼び込みたいと願うのだった…だが、水位はどんどん上がってくる。彼らは重大な選択を迫られるのであった…》


最後、全てから解放されてとても良い終わり方になった。
とにかく主人公のローザがとても健気で応援したくなる。てかめっちゃかわいい。

私はこの映画を見るまでは、ジャンル通りのダークさをストーリーに求めていたが、この話にはあまりない。しかし、主人公の、家をもっと良いところにしたいという思いがとても伝わってきて、バッドエンドなんて拒否したくなってしまうのだ。
ジャンルを覆してしまうというのはある種キャラクターの特権なのだなと感じた。

家を早く修繕したいのに住人に家賃を払ってもらえないローザはかわいそうだが、正直それは仕方ないことなのかなと思ってしまう。正直、主人公たちがくらす猫の世界は、もう、お金なんて意味を失ったように思えてしまう。
だが、ローザはどうしてもそれが必要なのだ。家をもっと良い場所にするために。
それが、ローザの『執着』だろう。

だが、彼女はそこから解放される。しかも、今まで抱いてきた執着とは完全にお別れはせず、共に生きていく。

これから訪れるであろう未知の世界にはどんな苦しいことがおこるか分からない。だが彼女たちはきっと大丈夫だろう。彼女たちにはHOMEがある。水平線の先に希望が見えるまで前を向いて進んでほしい。

もうめちゃくちゃローザの幸せを願ってしまった…


ローザに本当に心奪われました。
こんなキャラクターに出会えたのは本当に幸せです。
図師雪鷹

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