図師雪鷹

ドライブ・マイ・カーの図師雪鷹のレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
4.3
ロードムービーは好きなジャンルだ。
自分がまだ行ったことのない土地を、熟練な手で映してくれる。
別に旅行が主体の映画じゃないのに、まさか広島からあんな遠い場所まで行くとは思わなかった。


景色は当然素晴らしい。だが、それ以上に雄弁なのが顔だ。
妻を失った主人公の家福がずっと張り付けている絶望感あふれる表情…
家福のドライバー、みさきの23歳とは思えない全てを達観したような表情…
家福の妻と不倫した挙句家福を追ってきて演技指導を請う高槻の、静かでありながら狂気を秘めた表情…

舞台俳優である主人公・家福にとって、車でのデモテープ(声の主は妻)での演技練習はそのためだけのものではない。家福の妻は謎に包まれた人物で、彼はいつもそのテープや彼女が紡いだ物語からその謎を解こうとしていた。決して彼女自身から真相を聞くようなことはせず。

家福は、いつかその謎を解けるだろうと期待していただろう。だが、彼女が亡くなってからはそれは当然不可能だ。うつろな顔の家福からは、妻との会話を拒んだことへの後悔と、もうそれはどうやってでも解決できないという諦めが見てとれる。

家福のドライバー、さつきにも忘れがたい過去がある。さつきにとって車の運転とは、自身が仕事をもらえる唯一の手段であると同時に、過去にじりじりと背中を焼かれるような行為でもある。
解決できない過去。それを抱える二人にとって表情を極力変えない、感情をあまり出さないという行為は罪を重く受け止めるだったのかもしれない。

だが、それが瓦解したとき、とてつもなく心が動かされた。


演劇をしていると、演者同士の間に特別な何かが生まれる。
死を乗り越えたあとの家福はそれを十分に理解できてるはずだ。
図師雪鷹

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