せんきち

PLAN 75のせんきちのレビュー・感想・評価

PLAN 75(2022年製作の映画)
4.2
PLAN75

カンヌで賞とったのも納得。日本社会の構造の歪さを描いた傑作。


少子高齢化が進み財政難の日本政府が出した法案PLAN75。それは75歳以上の高齢者の安楽死を許可するものだった。長年勤務した清掃員を解雇されたミチ(倍賞千恵子)はPLAN75の契約をしてしまう。



ミチがPLAN75の契約に至る描写が鮮烈だ。身寄りもなく資産もない。たまに集まる友人はどれも似たような境遇だ。職を解雇され、次の職も決まらない。今の賃貸も追い出されそう。

PLAN75を契約した職員(磯村勇斗)は優しかったし執行までの孤独の相手するコールセンター職員(河合優美)も優しい。思い残すことはないし、後は執行を待つだけ‥

どうだろう。背筋が凍る。PLAN75というウソ以外全部リアルタイムで起きてることだ。


どんなホラーよりも恐ろしい。しかもPLAN75成立してもおかしくないし。賛同する人多いと思う。


本作は饒舌な説明をせず、日常の積み重ねで死に追い込まれる人、追い込む人を描写している。


特に素晴らしいのが倍賞千恵子。一人で食事する時も「いただきます」解雇された日に自分のロッカーを拭いて小さく「ありがとうございました」と呟くような人。多分、ずーっと一生懸命働いて色々あって報われなかった人なのが分かる。今書いてても少し泣ける。

磯村勇斗もいい。希望者に丁寧にPLAN75の説明をし、公園のベンチにとりつけるホームレス排除の手すりの選定をする。自分が何をしているのか完全に麻痺している。ある光景をみて、自分の行為が何に直結してるか分かり戦慄する顔!

河合優美もいい。PLAN75執行までの間、契約者の孤独を埋めるべく1日15分だけの電話対応。ミチの半生を聞きながら次第にミチに共感してしまう様。特上の寿司のくだりは切なくて泣く。


役者も素晴らしいが、語らない演出からはっきり分かるのが監督の静かな怒りだ。ラストのほんの僅かな救いに“こんな事が正しい訳ねえだろ!”という叫びが聞こえる。

また、PLAN75の設定が秀逸だ。75歳以上の高齢者の安楽死希望者に執行する契約で、契約者には支度金10万円が支給され、途中で嫌になったらキャンセル可能。

どうよ、このリアルさ。強制じゃないんですよ、任意なんですよ。しかも10万円というしみったれた金額のリアルさ。

更に生活保護が生きてるんですよ、この社会!ミチは生活保護を市役所職員に勧められながら、それを断りPLAN75に契約するの!ここ本当にぞっとした。


PLAN75は任意なので金持ち高齢者が契約するはずはない。貧困高齢者だけを狙い撃ちにした排除政策なのだ。

市役所、テレビでは政府のPLAN75のCMが延々と流され※1選択の余地をなくしていく。これは優しいT4作戦※2だ。


※1契約者が「生まれ方は選べないけど死に方は選べるでしょ。家族に迷惑かけたくないし(笑)」て言うの。こえーよ、やりそうじゃんこのCM!

※2ナチスドイツがホロコースト前に行った作戦。「難病、精神障害者、高齢者にこれだけの無駄な医療費が使われている」と宣伝し、該当者を専門の病院に隔離する政策。実際は隔離でなく処刑だった。

しかも、日本独自の問題で生活保護の受給が極悪人であるかのような風潮。これがPLAN75の圧倒的なリアリティの一因だ。


自己責任と生産性を求める社会がどこに行き着くのか、本作は指し示している。とんでもなく恐ろしいが必見である。
せんきち

せんきち