せんきち

聖地には蜘蛛が巣を張るのせんきちのレビュー・感想・評価

聖地には蜘蛛が巣を張る(2022年製作の映画)
3.8
イランに実在した連続殺人犯サイード・ハナイを描いた映画。


趣味の悪い方なのでシリアルキラー映画はよく観る。壮絶なものは多数観たが本作はトップクラスに入る。


家からハイヒールをバッグに入れ聖地マシュハドへ向かう女。彼女はマシュハド近くのトイレで化粧を直しハイヒールに履き替える。そして定位置で男を待つ。彼女は娼婦だ。

バイクに乗った男と交渉が成立。汚いビルに連れら不審に思う娼婦。用事があると帰ろうとした矢先に男は首を締め付ける。みるみる紅潮する女の顔。



とにかく描写が生々しい。娼婦を殺害するシーンを省略することなく丁寧に描く。その娼婦の日常も含めて。

殺される娼婦の日常を入れることで彼女たちも一人の人間であることを描写しており、犯人サイード・ハナイの悪辣さが際立つ。

しかし、本作はサイード・ハナイの日常も描く。彼はイラン・イラク戦争の帰還兵でトラウマに苦しみつつも子供と妻を愛し地域に貢献する善良な市民なのだ!

善良な市民が何故殺人を犯すのか?彼には聖地で売春をする汚らわしい女が許せないからだ。偏見と女性蔑視(ミソジニー)を宗教で正当化する邪悪さ。


普通のシリアルキラーものなら逮捕されて終わるのだが、本作は違う。逮捕されてから減刑運動が起きるのだ!地域住民、軍人の仲間達、売春婦を苦々しく思う敬虔な教徒達から!


映画の後半は強烈な世論の後押しを受けたサイード・ハナイを全うに裁けるのかというサスペンスに突入する。


ネタバレになるが、ちゃんとサイード・ハナイは死刑に処せられる。しかし、恐ろしく後味の悪いエピローグで本作は終わる。


いくら何でもひどすぎると思いパンフ(事件の概略が分かる傑作パンフ)を買ったが事実の方が倍ひどくて笑った。

シリアルキラーものであるが、本作が描くのはシリアルキラーそのものではなくイラン社会がもつ邪悪さだ。シリアルキラーより邪悪なものが社会にはあってシリアルキラーを殺してもその邪悪は生息し続ける。そしてその邪悪は我々一般人に巣くうものなのだ。


これはイラン特有の問題ではない。相模原障害者施設殺傷事件で被告を擁護した意見がネットで多数あった。植松聖はサイード・ハナイと全く同じだ。
せんきち

せんきち