こなつ

PLAN 75のこなつのレビュー・感想・評価

PLAN 75(2022年製作の映画)
3.8
第75回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門でカメラ・ドール特別表彰を受賞し、第46回日本アカデミー賞で、優秀脚本賞と優秀主演女優賞を受賞している。

日本アカデミー賞の最優秀賞決定の前に観ておきたいと思った作品。公開当時は、題材の重さに悲しくなりそうで観る気がしなかったのだが。

舞台は、少子高齢化が進んだ近い将来の日本。75歳以上が自ら生死を選別できる「プラン75」が国会で可決される。その制度の施行によって、命の選択を迫られる女性の姿を描いている。

映画の中の架空の制度とはいえ、少子高齢化により年金や医療保険など財政が圧迫している現状は、今まさに日本が抱えている大きな問題だ。働けなくなった高齢者に年金が行き渡らず、簡単に生活保護など受けられない状態になったら、貯えのない高齢者はどうやって生きていくのか?映画の中では、増え過ぎる老人のしわ寄せを若者が受けているという思想犯に老人が相次いで殺される事件が発生するが、そんな若者達のために、国のために、自ら安楽死を選ぶというのが何とも残酷な話だと思えてならなかった。

宿泊施設で清掃係として働く一人暮らしの78歳の角田ミチ(倍賞千恵子)は、職場を解雇され、年齢的に新しい仕事にも付けず、住んでいた集合住宅も取り壊されることになって路頭に迷う。彼女は、心の中では抵抗しながらも、最終的には「プラン75」を申し込む決断をする。

やはり大女優倍賞千恵子の演技は素晴らしい。既に80歳を超えている倍賞が等身大のミチを静かで上品に、そして老いていく哀しさを、終始凛とした演技で私達に訴える。

「プラン75」の受付窓口を担当する青年岡部ヒロム(磯村勇斗)、「プラン75」のコールセンターで働く成宮瑶子(河合優実)、フィリピン人の外国労働者マリア(ステファニー・アリアン)罪の意識を感じさせないように会社は彼らをコントロールするが、若者達にはそれぞれ葛藤が芽生え、複雑な思いがよぎっていく。

三人が絡む場面は殆どないのだが、それぞれに揺れ動く心理描写を、磯村勇斗、河合優実、マリアがとても丁寧に演じていた。ちょっとした表情から彼らの切ない気持ちが伝わってきて胸が熱くなった。

「プラン75」という制度に翻弄される人々が最後に見い出す答えは何なのか?ミチと瑤子との最後の電話、「プラン75」の施設内で叔父を探し回るヒロムの姿、強く印象に残るシーンだった。

ラストのミチの姿に一抹の光を見るが、高齢化が加速している今の日本にとって色々な問題を投げかけた作品には違いない。
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