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座頭市海を渡るのMASHのレビュー・感想・評価

座頭市海を渡る(1966年製作の映画)
3.5
座頭市シリーズ第14作目。田中邦衛の顔面アップから始まったかと思うと、スリの左手を叩き切る市。切られた左手がぶら下がっているという生々しくインパクト大なオープニング。それに反して肝心の内容はやや地味だが、プロットに一捻り加えた興味深い内容になっている。

自身が斬った男の妹といい感じの関係になるというのがなんとも言えない。だが、市を人斬りとしてではなく一人の人間として向き合うヒロインは、後述の百姓との存在も相まって、シリーズの中でも一際輝いて見える。また、そのどこか歪な関係を楽しいシーンでおどろおどろしい音楽を使ったり、謎の夢のシーンを挟んだりして、この監督らしい不思議な描き方をしている。

今回のライバルは洗練された流浪人ではなく、弓の使いに長けた荒くれ者。だが、そいつ以上に市が助けることになる百姓たちの方がなんかタチが悪いというのが興味深いところ。自分たちでなんとかしようとせず、我関せずでニヤニヤとするばかり。暴力沙汰は全部市におっかぶせようとする。「良い奴は良い顔はしてても良いことはしねえもんだね」と静かに呟くいた後に、「俺は人を信じたいんだよ」と言って村を助けようとする市がなんとも切ない。

飛んでくる矢を真っ二つにしたりと、超人ぶりを見せてくれる本作。ラストの殺陣は溜めの描き方がどこかマカロニウエスタン風だったり、迷路のような村の中で奇襲を仕掛けたり。そして矢が飛んでくる中での大立ち回りは観てて面白い。だが、その裏には誰も助けてくれない孤独感、そして今まで人を斬ってきたことを懺悔する市を襲っている。そう思うと、シリーズの中でも不思議な陰鬱さを感じさせる作品だ。
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