YasujiOshiba

Cronache di poveri amanti(原題)のYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

-
YT. 23-91。イタリア語版。ほんとうはヴィスコンティが撮りたかった作品。残念ながら『揺れる大地』の興行的な失敗もあり、この群像劇を撮るだけの資金が集まらず断念。脚本のアミデイがリッツァーニに権利を譲り規模を縮小して映画化したという。

その出来は、原作者のヴァスコ・プラトリーニも満足するほど。たしかに面白い。群像劇にして活劇でありそれゆえに民衆劇。でもだからこそヴィスコンティの演出で観てみたかったというのもある。

舞台は1925年フィレンツェのコルノ通り。セットだというけれど、この通りがよい。まるでデ・フィリッポのナポリ。ただし、話される言葉はフィレンツェ訛り。

1920年といえば、イタリアではファシズムの大衆運動が始まるころ。戦後の混乱のなか、ロシア革命の影響もあり、イタリアではストライキが頻繁に行われるが、これに対抗する暴力的な対抗運動を担うのがファシズム。1922年にはローマ進軍でムッソリーニが国王から首相に指名されるのだが、暴力と破壊はまだ続いていた。

そんなファシズムに対して、第一次大戦の帰還兵などからなる人民突撃隊(Arditi del Popolo)という民衆組織が各地で形成される。これは組織的な反ファシズム運動なのだけど、映画の舞台となったコルノ通りには、ファシストとアンチファシストが共に暮らしているという設定。

しかし1925年になるとムッソリーニは独裁体制の強化し反対派を、半ば力づくで押さえ込む。映画のなかで描かれるが、トスカーナにおいてもファシスト行動隊が反ファシストを暴力的に抑え込みことになる。

けれども映画のタイトルにあるように、物語はあくまでも「哀れな・貧しい恋人たちの日誌」なのだ。マストロヤンニが演じる反ファシストのウーゴと、彼をかくまったシニョーラの召使ジェスイーナ(アンナ・マリア・フェッレーロ)の悲しい恋。若い印刷工マリオと、惣菜店の店主の若い妻のミレーナ(アントネッラ・ルアルディ)の道ならぬ恋。体が弱いのに春を売る娼婦のエリーザの悲しい眼差し。そしてのコルノ通りの個性的な住民たちの、純朴な暮らし。そんな暮らしをじわじわと真綿で締め付けてゆく政治と暴力。

それにしても、どうして日本語版がないのだろう。娯楽映画として楽しめる名作なのだ。だからこそ、もしもヴィスコンティのフィルモグラフィーに入っていたらと、想像しないではいられない。
YasujiOshiba

YasujiOshiba