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ドント・ウォーリー・ダーリンのminoのネタバレレビュー・内容・結末

3.3

このレビューはネタバレを含みます

素晴らしい夢を、なんの苦労もなく見続けたいか?

そう問われたら、頷く人はどれほどいるのだろう。

これは満ち足りている夢を見続ける物語だ。
毎日愛する夫を送り出すかわいらしい主婦たち。エクササイズに精を出し、旦那の食事を作り、たまにパーティではしゃぐ。
規則正しく、均一な生活。
隔離地域で彼女たちは満ち足りた完璧な日々を送るが、徐々に不穏さが見え隠れし──主人公はやがてこの街の真実に気づいてしまう。

不穏さの描写はモダンダンスのような映像美だけでなく、女性の悲鳴のようなノイズ音にも現れる。
音の不気味さに視聴中、何回か仰け反った。

最後の最後でラスボスが男性ではなく、その妻だったところを見るに、あの世界の規律を作っていたのは彼女だったのだろう。
言われてみれば、あの世界は全体的に時代が古い感じがする。
主婦としてのあり方だとか、水着のデザイン、パーティのダンス等等。
おそらく、ラスボスの最も輝かしい時代があの砂漠の真ん中に封じ込められている。

世界の中核に触れてから、主人公は無意識にラップを顔に巻いたりと、あの世界から出るための方法を錯誤し始めている。
同意があるうえであの世界に行くならまだしも、不同意であれはあまりにも人権がなさすぎてホラーだ。
あの生活能力の低そうな恋人が用意した、布で絞った水も清潔感なさそうで心配しかない。世話の意味分かっとんのか?

彼が恋人を繋ぎ止めるためにしなければいけなかったことは、一方的に恋人を夢の世界に幽閉することではなく、まずきちんと料理を作ったり彼女を労ることだったはずだ。
それもせず、陰謀論的な方向に飛びついた側が最後ああなるのも仕方ないね……としか言いようがない。

終盤、おそらく子供を亡くしたのであろうことが一瞬で察せられる「ここでなら子供たちを守れる」という隣人の悲しくて切実な一言も胸にささる。

様々な理由で、あの美しい夢に居たがった人々はいるのだろう。
全面的にあの世界を否定することはできなくて、現実を生きていると素晴らしい夢だけ見ていたい気持ちだって、痛いほどわかる。
けれど、やはり夢は夢なのだ。
無理やり人に見せられ続けたものなら尚更。
男性に連れてこられた女性ばかりと言うところが、旧世代のあり方を揶揄するように象徴的でもある。

タイトルの「ドントウォーリーダーリン」は女性たちが言いたかった言葉だろうか。
それとも、男性たちが言われたかった言葉なのだろうか。
おそらく、後者なのだろう。

私たちは無理やり見せられた美しい夢だけで、生きていくことはできない。
飛行機がゆっくりと墜落するように、やがて目はさめる。
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