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ザ・ホエールの夜のレビュー・感想・評価

ザ・ホエール(2022年製作の映画)
4.3
妻と8歳の娘を捨ててまで結ばれた男子学生を失い体重272キロになるまで太ってしまった男が死ぬまでの最後の5日間を描く。
戯曲原作なこともあり、物語は全て彼のアパートの一室で完結する。その映像的狭さと、クジラのような巨漢が精神的にも物理的にも閉塞感を助長する。暴飲暴食はもはや自傷行為で、吐くまで食べるほどに自分を追い込む。垂れた皮膚や醜い脂肪だらけの肉体は存在しているだけでとても痛々しい。生きてしまっていることを恥じて恨むように。結論を先延ばしにしながら、ゆっくりと死を加速させる。
彼のしてることは傍から見たら身勝手だけど、誰も彼を責めることはできない。全ての行動に嘘偽りが一つもないからだ。女性と結婚したことも、子どもを作りたかったことも、男子学生を求めたことも、何も矛盾しないのだ。一度壊れたものは完全にもとの形に戻ることはできないけれど、許すことだけが救いではない。ダーレン・アロノフスキー監督はここのところ宗教色強め。心からの贖罪、全身全霊で身を捧げるラストは泣いた。
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