シミステツ

ザ・ホエールのシミステツのネタバレレビュー・内容・結末

ザ・ホエール(2022年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

エッセイ講師のチャーリー。オンライン授業でカメラを映さない理由。それは過食で太りすぎた見た目。彼は心不全が悪化しても病院へ行くことを拒み続けている。死期を悟り娘のエリーに会おうと決心するも、多くの問題を抱えるエリー。娘のために自らの資産をすべてあげると約束するチャーリー。その代わりにエッセイを書いてくれと頼む。家族より恋をとったことへの悔やみ。エリーへの愛。正直でいることのすばらしさ。神よりも信じたいもの。人は誰かに救われたい、救いたいと願う。

メルヴィルの『白鯨』の構図が分かってると理解が進む部分もある。キリスト教のモチーフも日本人には理解しづらいがアカデミー賞にはヒットしてくるなという印象。
ときおりTVニュースの描写が入ってくるが、キリスト教福音派は共和党やトランプの支持基盤。妊娠中絶禁止の最高裁判決でも話題になったが、同性婚や多様性を認めるリベラルな立場からのキリスト教ナショナリズムへのアンチテーゼも示唆されているのではと思った。

『白鯨』にあえてなぞらえるのならば、白鯨(モビー・ディック)がチャーリーでエイハブがトーマス、その対立にスターバックのリズと捉えられるけど、実際は白人のキリスト教文明の象徴としてニューライフのトーマスが白鯨で、ニューライフに兄を殺されたリズがエイハブと考えることもできるし、娘のエリーがチャーリーにとってのエイハブと見ることもできるが、多面的というか、そういうわけでもなさそう。過去の傷や復讐心からくる衝突の中にも、救いたいという想いや愛、願いがある。

「どんな人であれ誰かを気にせずにはいられない。人間はすばらしい」

「君は僕の最高の作品だ」