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ビリーバーズのbutasuのネタバレレビュー・内容・結末

ビリーバーズ(2022年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

それほど評価が高くない作品のようだが、個人的にめちゃくちゃ刺さった。主演3人が素晴らしい。主人公の磯村勇斗は芝居が上手いし、初主演にこの作品を選んだ勇気が偉い。ヒロインの副議長を演じた北村優衣はとにかく身体を張りまくりで、後半は服を着ていないシーンの方が多いくらいで偉すぎる。これだけエロだらけなのに決して下品な映画になっていないのも監督の手腕と彼女の澄んだ存在感のおかげ。そして圧巻なのがクズ野郎である議長を演じた宇野祥平。彼がおでこに血管を浮かばせ口から泡を吐きながら絶叫する数々のシーンは超ド迫力。あそこまでのキモさとヤバさを出せるのは本当に凄い。

議長のクズさはえげつなかった。完全に自分の損得で行動しており、信仰も都合良く解釈して利用しているようにしか見えない。一度性欲が解放されてしまってからの止まらなさ。彼は議長であの小さな小さなコミュニティの中では一番の権力者であり、それが彼を加速させてしまった。しかしそれでも彼から狂気は感じない。ただただ醜く愚かな男なのだ。ヤバイ奴なのは間違いないが。あれだけ食べ物に気を使っている素振りだったのに一人で侵入者の船に忍び込んで市販のお菓子やジュースをもりもり摂取しているシーンは、彼の矮小さと狡猾さを如実に示している。

そして副議長もまたそこまで信仰心が強いわけではない。そもそも彼女が入信したキッカケは、暴力夫から助けてくれた親切な男に惚れ、それが信者だったというだけのこと。世間のものを"汚れている"として毛嫌いしているが、恐らく根底にあるのは夫への憎しみなのだろう。その証拠に、彼女はルールを破ることに大した抵抗がない。議長がうるさいから従っているだけ。さらに生存すら脅かされる閉鎖的な特殊空間で、食料が得られなくなっていくことで性欲がカンストしてしまったため、彼女はひたすら主人公を求めることになる。主人公といるときと議長といるときで、明らかにまとう空気を変化させる北村優衣の演技が素晴らしい。こんなことを言うのは失礼なのだろうが、北村優衣の左右非対称な裸体はとても歪で人間臭く、だからこそあの世界ではとても神々しかった。

ギリギリで保っていた三人の性欲を制御する理性は、侵入者に副議長が強姦されそうになることで崩壊してしまう。普段我々が押し殺して社会生活を送っている"性欲"というものが、ちゃんと三大欲求の一つなのだということをまざまざと示すこの見せ方は本当にえげつなかった。俗世間を捨て全ての欲を捨て去ったつもりでも生物としての本能は消せない、所詮人間も動物でしかないのだと言わんばかりの残酷さ。あの閉鎖空間自体の狂気は尋常ではない。縛り付けられて絶叫して口淫を要求する議長、全裸で従う副議長、大声でそれを応援する主人公、の絵面は、頭がおかしくなりそうでクラクラした。

実際、一番信仰心が強かったのは間違いなく主人公である。彼の身体の中には教えが染み込んでおり、それを実行することで彼は心の平穏を保っている。母親を宗教から解放しようとしたのが彼が入信したキッカケだというのが何とも皮肉。しかし彼が信仰していたのは最早教祖ではなかったのではないかとも思う。彼は自分なりに教義を解釈し、それに沿って生きているように見えた。だからこそ教祖が集団自殺を図ったときには止めようとしたし、その後収監されても瞑想を続けたのだろう。

「夢を記憶しコントロールできるようになることで自己実現を目指す」という教団のプログラムは、劇中で示されていたようにかなり危険だ。現実と夢の境界を失ってしまう。そしてラストで、主人公はしっかりとそこにハマってしまっている。しかしゾッとするのは、彼にはそれがわかっているのだろうというところ。彼は「今の自分に必要なのは安定よりも不安定です」と言い、現実では死んでしまった副議長と穏やかに暮らす夢に逃げ続ける。

しかしこんな漫画を実写化しようとしたのも凄いし、ちゃんと実写化してしまったのも凄すぎる。AVかというくらい性描写が多く直接的なので、見る人はかなり選ぶ作品ではある。ただこのテーマであれば絶対にそこをボカすわけにはいかないだろう。
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