してぃぼ

ハッチング―孵化―のしてぃぼのレビュー・感想・評価

ハッチング―孵化―(2022年製作の映画)
4.2
付き合った時はあんなに好きだったのに、初めて仲良くなった日はあんなに気が合うと思っていたのに。いつの間にか熱が冷めるという経験が人にはあるはず。でもその対象が家族だとしたら恐ろしいと思いませんか?

SNSを開設し画面越しの奥のユーザーに気を取られ、我が子に真摯に向き合わず、自分の価値を上げる対象としてしか見ていない母親。そんな妻を見て見ぬふりをする父親。ワガママでマザコンな弟。家族から疎外感を感じるティンヤは、母親が半殺しにしたカラスに罪悪感を抱き、カラスの卵を家へ持ち帰る。見つからないよう大切に育てた結果、ティンヤの悲しみの涙をきっかけに孵化する。

孵化した鳥をティンヤは可愛がり、家族から与えられない愛情を鳥に注ぐ。酷く痩せこけ、目も大きく、身体からは粘着性の液体が出ている。それでも大切に育てていたのは愛情を超越した母性なのかも。そしてある日その鳥に名前を付けて、洋服を着せてあげる。

ここから物語は大きく動き出す。鳥は鳥の形として大人にならず時と共にティンヤに似た姿に変わっていく。遂には母の浮気相手の赤ん坊にあわや危害を加えるというところまで行き、母親と浮気相手は大喧嘩。母親に「せめてあなたぐらいは私を幸せにしてくれると思った」と暴言を吐かれる。

落胆したティンヤは、あんなに可愛がっていた鳥を最終的には邪魔者とみなして「いらない」と吐き捨てる。それはまるで母のようだった。

ラストのメッセージ性は秀逸。瀕死のティンヤの生き血を飲んだ鳥がティンヤとして立ち上がる。「あなたが産んだ子供が育てた鳥なんだから、大切に育てるよね?」と言っているように思えた。

北欧ホラーのジワジワと真綿で首を絞めていく感じが本当に気持ち悪くて、そこが面白い。美しい街並みや景色。対象にギスギスしていて心が詰まる人間関係。

体操のライバルの女の子は母親が娘を大会に出場させるために何か企てるかと思ったら鳥。
条件付きでない普遍的な感情なんてあるのかな。とか考えさせられました。
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