Punisher田中

PIGGY ピギーのPunisher田中のレビュー・感想・評価

PIGGY ピギー(2022年製作の映画)
3.8
舞台はスペインの田舎町。
街中にひっそりと佇む肉屋の娘・サラは同級生によるいじめのせいで、こんな暑い中でも湖へ泳ぎに行くことがなかなか出来なかった。
しかし、暑さと親からの圧力に耐えかねて意を決してサラは湖へと泳ぎへ行くのだった...

自身のアイデンティティと善悪の境界線を巡る、1人の少女が青春を懸けたスリラー。
「呪術廻戦」の五条悟が云った「若人から青春を取り上げるなんて許されていないんだよ。何人たりともね。」というセリフがあるが、まさかこのセリフがリフレインされる様な作品だったとは。
全ての言葉がナイフの様で、全ての要事が苦しくてーーー。
そんな多感な時期に繰り広げられる殺人鬼といじめっ子、そして両親との駆け引き。
言いたいのに言えない、けど言ったらーーの葛藤を全編しっかり語っているし、大体の葛藤テーマがダブルミーニングのために気づいてしまうと余計こちらがしんどくなってしまうのがズルい。この脚本をお考えになった方、本当凄いと思う。
この葛藤から解放される終盤と何かに成ったラストは特に良くて、タイトルの意味がラストを見るとまた別の意味に感じたり、タイトルのピギー(太った人)に関連づけられたモチーフやシーンが一貫して出て来るのが本当にいいなと。

また、ウェス・アンダーソン寄りな昼間の色彩と相まった夜の妖艶な色彩が良く、撮影技術も素晴らしい。
とてもミニシアター系とは思えない仕上がりでビックリした。というかシーンの一つ一つが人為的で無機質な綺麗さを放っていたのにも気になったし、匠なカメラワークが今作を面白くしていた様に感じられた。どのシーンにもかならず情報の余白を残す構図が素晴らしい。
鑑賞ハードルが回数、時間、劇場規模的に困難だが、絶対見たほうが良いと思う。
ぼく自身、余韻が未だにつづいていて、脳の中で見たシーンを未だに反芻して処理を続けている。