幽斎

生き埋めの幽斎のレビュー・感想・評価

生き埋め(2019年製作の映画)
4.0
2019年にポーランドのテレビ局と映画製作会社が共同出資した長編映画。日本ではアマプラでしか観れないが、乱造される何ちゃってサスペンスとは異なる、社会派スリラー。作品のアトモスフィア自体が正にポーランドを表してる。アマプラのレビューに「星5つで高く評価してるレビュアーの感覚を疑う」と有るが、多分ソレは私の事だろう(笑)。AmazonPrimeVideoで鑑賞。

ポーランド映画と言えば国内の内情を投影した陰鬱な作品が多い。辛気臭さと寒々とした街並みから連想される、沈鬱なムードも漂うが、国を代表するAndrzej Wajda監督の様に、難解なイメージが有るかもしれない。生き埋めと言えば2010年に起きたチリ坑道落盤事故が思い出されるが、其処でも仲間内で不倫が発覚、現地ではヒーロー・メンタルな雰囲気は皆無だった。本作もカクパーが現場に行って無い事は簡単に露呈する。

原題「Żelazny Most」ポーランドに実在するEU最大規模の浮選鉱物貯留層。閉所恐怖症の人が見たら圧迫度は3割増しかもしれないが、作品のテイストが「連帯」を想起させるのは、やはりポーランドらしさとでも言うべきか。本作は間違いなく面白い作品では無い、うっかりレスキュー映画と思って観る方も居るだろう。だが「助けてあげられなくてゴメンナサイ」と言う真実では無い。

【ネタバレ】物語の核心に触れる考察へ移ります。自己責任でご覧下さい【閲覧注意!】

オスカーは坑道に入る前に一度出ようとした。それはカクパーとマグダが自分の居ない間に不倫する事を嗅ぎ付けたから。マグダから不倫を打ち明けられても咎めなかったが、だからと言って不倫を認めた訳では無い。彼が10日間も狭い坑道で耐えれたのもマグダに会いたいから。だが、助からないと知った先には自分を裏切った妻への憎しみしか残らない。彼は何重もの意味で殺されたのだ。

カクパーは始めからマグダ狙いでオスカーと友人同士、としか利害関係が説明できない。一方で彼には炭鉱作業員の「魂」は残っており、本気でオスカーを助けようとする。マグダとの不倫は味見程度の軽い気持ちで、それが取り返しのつかない事態に巻き込まれる。彼は事故後の責任を取らされ会社はクビだろう。当然、マグダとの不倫関係も終わる。彼は体は無傷でも罪悪感と言う心の傷は一生癒えないだろう。

マグダはオスカーとの生活に不満が有り、カクパーから金とセックスの両面で満たされようとした。故に夫が戻っても彼女には何のメリットも無い。象徴的なのは、会社での立ち振る舞いやラストで描かれるマイクの電源が切られてるとも知らず、大声で呼び掛ける。これは、事後の会社からの多額の損害賠償を勝ち取る為のポーズに過ぎない。大金を得ればカクパーは用済み。夫が死んだ悲劇のヒロインは将来も安泰なのだ。

ラストで3人は別の方向へ歩く。これは未完成のエンディング、埋めるのは貴方自身だ。
幽斎

幽斎