緋里阿純

鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカーの緋里阿純のレビュー・感想・評価

3.2
※先ず初めに断っておきたいのは、前作が漫画原作の実写化作品の中でも一際駄作であった為、それと比較した上且つ原作のストーリーの圧倒的なクオリティの高さに救われたが故に、若干評価が甘めになっているという自覚はあるので悪しからず。

先ずキャスト陣の演技について、前作はキャスト陣全員が全員アニメの雰囲気に似せるためか無理をしている芝居が目立ち、そんな中で松雪泰子さんのみがキャラクターの再現に成功してしまっていて、それがまた他のキャストの演技の不自然さを際立たせてしまうという惨憺たる様だった。
しかし、今作は主演の山田涼介はじめ、前作からの続投組は慣れもあってか上手くアニメと実写の間辺りを掴んだような演技を披露しており、前作ほどの違和感は無く、終始安定していたように思う。
また、今作から参戦する追加キャストに関しては、リン役の渡邊圭祐、ランファン役の黒島結菜、ブラッドレイ役の舘ひろし、そして本作の実質主役であるスカー役の新田真剣佑らは、上手く原作のキャラクターらしさを取り入れつつ、続投組とも調和の取れた演技を披露していた。
特に、渡邊圭祐のリンらしい飄々としつつも仲間思いな熱い一面を持つ様子や、新田真剣佑の圧倒的な存在感を放つスカーは素晴らしかった。惜しむらくは、製作費の少なさからか、メイクや衣装に安っぽさが付き纏ってしまう事か。
あと(前作からそうではあるが)、ウィンリィ役の本田翼は、今回は特にせっかくあそこまで再現したのなら、髪色も金髪にした方が良かったのでは?そこまで金髪が似合わない顔立ちでもないと思うのだが…。

次にストーリーについて。今作は、原作に忠実且つ必要な要素を取捨選択し、展開の順番や内容を組み換えて上手く再構築出来ていたと思う。

特に、序盤でセントラル行きの列車でエルリック兄弟がリンと初対面し、すかさず原作1巻にあった列車襲撃事件、そこからエンヴィーの再登場と“人柱”というキーワードの提示と、今作の舞台を整える上で必要なやり取りを一挙にこなしてしまう手際の良さには素直に拍手。ただ、やはり予算の都合か、はたまた『マトリックス』のオマージュのつもりなのか、戦闘が始まった途端に直前まで戦っていた列車襲撃団や乗客が一斉に姿を消すというのは、いくら何でも安っぽ過ぎやしないだろうか?せっかくキャスト陣はアクションも頑張っていただけに、せめて避難する乗客と平行してアクションシーンを展開する等してもらえればと勿体なさが目立ちもした。

スカーを巡る一連の事件と同時に、水面下で展開される国家錬成陣作成へ向けたホムンクルス達の陰謀は、原作のストーリーテリングの上手さが土台にあるのは分かっているが、テンポ良く無駄なく展開されていた印象で、詰め込み過ぎといった印象も、原作未読勢を置いてけぼりにする印象も特には抱かなかった。ただ、これは原作とアニメ2期を履修済みの私だからこその感覚かもしれないが。

今作を語る上で避けては通れないであろうCG表現について。前作は、後半の大量生産ホムンクルスのシーン等に息切れ感は感じつつも、全体的に見れば「邦画実写としては中々かな」という印象を受ける程度には、CGのクオリティだけは頑張っていたと思う。
しかし、今作では前作以上に製作費が少ないであろう事を容易に想像出来てしまうほど、要所要所でお粗末なCGが目立つ。エルリック兄弟とスカー戦で地面から錬成された柱や掌、イシュバール殲滅戦の過去回想における街並みや爆破、終戦後のロイとリザの会話シーンでの土煙、アルとスカー戦の貯水タンクから溢れ出る水の表現等、列挙しだすとキリが無くなってしまいそうなほどだ。
特に、イシュバール殲滅戦の回想シーンは、余程予算が無かったのか、全く同じシーンを使い回し始めた時は、思わず笑ってしまいそうだった。
とはいえ、暗闇故に細かいディテールまで見せる必要がない事もあってか、ラストでエンヴィーが見せた真の姿のシーンはせめてもの意地を感じはした。

全体的に、前作の酷評に次ぐ酷評の嵐は、出演者やスタッフも承知の上だと思うので、その反省を踏まえたのか改善された部分は多く、少なくとも酷評に値する作品からは脱したと思われる。しかし、肝心の製作費事情が響いている箇所があまりにも多いのが惜しい。
「「「なるほど、作品を通して「等価交換」の法則を描いているんですね!!(寺田心風)」」」
まぁ、このクオリティと原作に忠実なアプローチが出来るなら、前作からやっておけって話ではあるのだが(笑)

ただ、正直、来月の後編が楽しみになる(エンドクレジット前に予告を流す辺り、余程最後まで観客を座席から立たせずにいさせる自信がなかったのだろうが…)くらいには楽しめたし、しっかりと実写版ハガレンの完結を見届けようと思う。

最後に一つ。誰が言ったか“エンドクレジットで最後に自分の名前を画面中央で止めるタイプの監督の作品にロクなのは無ぇ!”という台詞があるのだが、曽利文彦監督、貴方まさにそれですね(笑)
緋里阿純

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