緋里阿純

Luis(原題)の緋里阿純のレビュー・感想・評価

Luis(原題)(2008年製作の映画)
4.0
チリ出身の監督達による短編アニメーション。YouTubeで閲覧可能。
前年に公開された『Lucia』の内容を受けてのものとなっているので、あちらの視聴も推奨。

https://youtu.be/veMBIWv0ews?si=dZ-oCuFU-2RfsAu9

荒んでいた部屋が、次第に美しい部屋へと変貌していく様子は、『Lucia』とは真逆である。あちらが1人の少女の健全だった精神が次第に蝕まれていく様子を表現しているように見えるのに対して、こちらは乱れていた精神が安定し、驕り高ぶっているように見える。部屋の通り、見た目はあくまでも正常を装ってだ。

『Lucia』同様、今作を理解する上で欠かせないのが、“コロニア・ディグニダ”についての知識である。以下、あちらと重複するが記載しておく。

【チリに実在した宗教コミューンで、指導者のパウル・シェーファーによる信者の洗脳、及び強制労働や拷問、武器の密輸、政府との癒着など、様々な犯罪行為を行ってきた宗教団体。
シェーファーはミソジニー(女性嫌悪)かつペドフィリア(小児性愛者)だった事から、幼い男子に性的虐待を日常的に加えつつ、女子は強制労働に就かせ酷使していたという。】

恐らく、ルイスはルシアに、自分がシェーファーの寵愛を受けている事を知られたくはなかったのだろう。しかし、彼の持つ巨大な権力という“森”に飲み込まれ一体化した事で、自らも力を手にしたと勘違いしてしまった。映像は美しい家のカーテンが閉められる様子で、まさしく幕を閉じるが、実際の団体同様に彼がこの先破滅していくかもしれないという不穏さが漂う。
映像の不気味さも相まって、個人的にはこちらの映像の方が好みだ。

※最後に、公開されている映像の字幕を簡単ながら訳したものを記載するので、作品を理解する一助になれば幸いである。

At the beginning I never got close to her window.
(最初の頃、私は彼女の窓に近づかなかった。)
From a distance, because I was afraid that someone could hear.
(誰かに聞かれるのが怖かったからだ。)
Or the dogs.
(犬にも。)
During the night, all the sounds are louder.
(夜間はすべての音が大きくなる。)
And you can hear your own breath if you are sad.
(悲しいときは自分の息づかいも聞こえる。)
Or the grass moving alone.
(草が一人で動く音も聞こえる。)
Or little footsteps, like rats.
(ネズミのような小さな足音も聞こえる。)
And animals in heat making sounds like babies.
(発情期の動物の赤ん坊のような鳴き声も。)
And I went to the forest.
(私は森に行った。)
And I said I was alone.
(私は一人だと言った。)
And Lusia showed up and said.
(するとルシアが現れて言った。)
What's your name?
(あなたの名前は?)
I said Luis.
(僕はルイスと答えた。)
And she called me “Luis”.
(彼女は僕のことを "ルイス "と呼んだ。)
And said “I love you and I want to see you”
( "愛してる、会いたい "と言った。)
And she came and we were so happy.
(彼女が来て、僕たちはとても幸せだった。)
And then not anymore.
(でも、もう違う。)
No then not anymore.
(いや、もう違う。)
I wanted to be protected in an animals costume.
(私は動物のコスチュームを着て守られたかった。)
All my body covered.
(全身を覆われたかった。)
Even my ears, my face, everything.
(耳も、顔も、何もかも。)
Dead animal eyes that somehow were transparent.
(死んだ動物の目はなぜか透明だった。)
I could move them by only thinking that I wanted to move them.
(動かそうと思うだけで動かせる。)
And be free and move in the forest without fear.
(自由に、恐れることなく森の中を動き回る。)
I would shout with an animal voice.
(俺は動物の声で叫んだ。)
Hey.
(「オイ!」)
Mother fucker, son of a bitch, mother fucker, I'll kill you, fucking idiot, I'm gonna beat you up, son of a bitch,bitch,bitch.
(マザーファッカー、クソ野郎、マザーファッカー、殺してやる、クソバカ野郎、ぶちのめしてやる、クソ野郎、クソ野郎、クソ野郎。)
I'll kill you, asshole, son of a bitch, you, fucking idiot.
(殺してやる、クソ野郎、クソバカ野郎、この、クソバカ野郎。)
緋里阿純

緋里阿純