緋里阿純

ゴジラ-1.0/Cの緋里阿純のレビュー・感想・評価

ゴジラ-1.0/C(2023年製作の映画)
5.0
作品に関する詳細なレビューは、カラー版の方にありったけの文章を込めたので、本レビューはモノクロならではのポイントについて幾つか。

私自身はあまりモノクロ作品を多くは鑑賞していないが、今作を通じて、正確にはカラー版とモノクロ版両方を観た事で、モノクロ作品の持つ利点に気付けたように思う。

モノクロ画面になった事で、屋内や夜間のシーンにおいて、画面隅や奥の暗がりが黒く潰れるシーンが多々あるのだが、その“潰れる”というのが重要だった。
見えない部分がある事で、「寧ろリアリティが増す」のだ。特に、今作は舞台が昭和である為、街並みや人物の生活描写との相性が抜群に良かった。
思えば、昨今の作品は映像の色鮮やかさやきめ細かさが強化され尽くした事で、画面に映し出される情報の“余白”というか、観客が自由に情報を補完する隙が無くなったと思う。勿論、それ自体は技術の進歩として素晴らしい事であるし、IMAX愛好家としても、より鮮やかにきめ細かく描写されるのは大歓迎なのだが、今作のようにモノクロだからこそ活きる作品もあると気付けたのは嬉しい発見だった。

リアリティが増すという点については、戦艦や海上でのシーンとの親和性も抜群だった。戦艦は、後は画面にノイズをちらつかせれば記録映像と見間違うレベルだし、海上特に波や水飛沫に至っては、どう見ても本物にしか見えない。カラー版でもリアルな存在感を放っていた波や水飛沫が、モノクロになる事で更に凄みが増すとは思わなかった。

もう一つ、モノクロになった事でより輝くようになったと思うのが、典子役の浜辺美波だ。ラジオにてライムスターの宇多丸さんもカラー版の批評の際に絶賛していたが、彼女の“東宝の女優”という顔立ちとその存在感が、モノクロになった事でより強化されたように思う。また、ラストの痣についても、こちらの方が理解しやすい。

主役であるゴジラに関しては、最早説明不要というか、意図的に初代を意識して構成されたシーン以外も、常に初代感がある。銀座襲撃シーンはモノクロ版最大の白眉だろう。典子を失った直後の浩一の咆哮と黒い雨、壊滅させられた銀座の街並みをニュース音声と共に眺める際の絶望感と没入感は、既にカラー版を5回観たはずなのに、初見時と変わりないくらいに強烈に胸を掴まれた。

海外興収も絶好調のようだが、出来れば海外の人々にもこのモノクロ版を観てほしい。特に海外の人々は、より記録映像を見ているかのようなリアリティが増すことだろうし。
緋里阿純

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