YAEPIN

夜を走るのYAEPINのレビュー・感想・評価

夜を走る(2021年製作の映画)
4.6
今自分は何を観ていたのか???
何も分からない!!誰かと喋りたい!

ポスターだけ見かけて気になって、ジャケ買いならぬ「ジャケ鑑賞」した。
どうやらネタバレ厳禁らしいとだけ知って、後は予告すら見かけていなかった。
ほとんどまっさらな状態だったため、恐らく製作陣の思うがまま、好きなように振り回され、揺さぶられた。

取り留めもない展開の連続で、奇を衒うことが目的化している、と言われてしまえばそれまでなのだが、その展開の前に鬱屈や静かな抑圧が容赦なくジワジワと観客を蝕むため、むしろそれくらい突拍子もなく殻を破っている方が清々しい。
地面スレスレまで大きく屈伸してから、斜め上へジャンプしていくような作品だった。

最後の20分位までは、展開の暴力性と陰湿な暗さ、同時にふと馬鹿馬鹿しくなるような抜け感から、パク・チャヌク作品を連想していたら、驚くことに主演の足立智充は『お嬢さん』に出演していた。

本作は、演出と役者の演技の細やかさによって、キャラクターの人間性や彼らが置かれている状況・環境・心情を、セリフに頼らず説明している。
特にキャラクターは、突拍子もない行動をしながらも、この日本の片隅に必ずいるだろうと思わせるようなリアリティを帯びていた。
本当に、その辺の工場で死んだ眼で作業していそうな、場末の飲み屋で大声で愚痴を言っていそうな人達ばかりで、何日か鉄くず工場に研修に行ったのかと思うほどだ。

状況や心象説明、という点でも同様で、周囲の環境音や細かな動作、セットが雄弁に物語っている。
例えば冒頭で、主人公の秋本が営業電話を途中で切られた静寂の後、1台のバンがブーンと横を通り過ぎる。
静かな絶望を起点に、さざ波が立つ瞬間を表現することで、その後の大事件を予感させる演出のように感じた。
電話をブツ切りされた後の間も完璧で、偶然なのか、計算だとしたら相当細かい配置だと思った。

とはいえ、YouTubeに上がっている佐向監督の2時間インタビュー(https://youtu.be/f9tZxvqjx1g)を見ると、かなり制作陣それぞれの思いつきや諸般の事情による偶発的な演出も多かったそうだ。

秋本が営業車の中で、淡々と機械的に続く気象情報でも、彼の静謐な狂気を感じさせるが、あれも編集時に組み込まれたもので、監督的には予定外だったそうだ。
しかも気象情報で流れる地名は、実在のものから徐々にデタラメになっていくそうで、意図してかせずか画面に状況や感情を示す説得力を持たせることに成功している。

そのインタビュー動画がかなり面白く、監督としては
・主人公をはじめとする登場人物の当事者意識のなさ(悲劇的な事件が起ころうとも、どこか他人事で責任転嫁の傾向にある)
・発生する事象の表面的な因果関係のなさ(理由を付けられない悲劇の不条理)
を提示する意図があったと聞いて、この作品の解像度が少し上がった気がする。
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