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オッペンハイマーのYAEPINのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.8
情報量の多さとIMAXの爆音と絶望感とで頭が痛い。
正直観る前の自分に戻りたい。

破壊を伴ったとしても創造することが止められないのなら、人類は本当に自滅してしまうのではないかと思ってしまう。
ちょうど本編の前に『猿の惑星』の予告がやっていたので、人間の文明の崩壊を思いやらずにいられない。

この暗澹たる気分は、やはり音の圧力によるところも大きいと思う。
IMAXのプレミアシートはあらゆる方向の音が最もよく届く場所なのか、不快な金属音や暗い轟音が身体中に叩きつけられるようだった。
祝福で足を踏み鳴らす音の方が爆風の音よりも破壊的に聴こえるなど、音響演出が恐ろしく巧みである。
喝采を浴びるシーンには叫び声が混じり、ほとんどホラーに思えた。

さらに、他の作品でも同様だがカットが多くて視覚的にも目まぐるしい。
おまけに重要な情報が矢継ぎ早に繰り出されるので、ショート動画の連続を3時間観ているようだった。

映像については、「原爆の被害を描き切っていない」という批評もあるようだが、敢えて直接的な表現はせずとも、キリアン・マーフィの張り詰めた視線と指先はその脅威を十分に想像させるものだと感じた。

他の俳優陣で言えば、ロバート・ダウニーJrとケネス・ブラナーがあんなに深刻で真摯な演技をしているところを初めて見て驚いた。
またエミリー・ブラントも、かなり痩せこけて常に眉間に皺を寄せ、精神の不安定さを全身で表現していた。
そして何よりゲイリー・オールドマンは『レオン』以来の悪役演技かもしれない。

平和を訴えると即共産主義として糾弾される不当さはよく伝わったが、男たちの政治闘争みたいなものは何故見せられているのかよく分からなかった。

そして、この映画だけではないが「爆弾」自体がある程度存在を許容されていることにやや違和感を覚える。仮に彼が発明たものが「超高性能ガス室」だったとしたら、たとえどんな理由でもこの映画は作られただろうか。

その一方で、仮に自分の仲間が弾圧されていた時、その敵に壊滅的な被害を与える武器を自分は使わずにいられるだろうか。
常に問いを続けなければならない。
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