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アイアンクローのYAEPINのレビュー・感想・評価

アイアンクロー(2023年製作の映画)
4.4
プロレスはほとんど観たことがなく、アイアンクローがどんな技かも知らない状態で観たが、恐ろしく悲しく、興味深い物語だと思った。

中盤くらいまでは、今度プロレス観に行ってみようかなーくらいで気楽に構えていたが、ここまでの悲劇を知ってしまうと素直に楽しめない気がする。

サイコパスのスパルタ親父を演じたホルト・マッキャラニーは、ドラマ『マインドハンター』での無骨な演技が印象的だったが、本作で実際の家族の写真を見たらゾッとするほど本人と瓜二つだった。
そしてWikipediaを読んだら、実際は年の離れた6男もいたとのこと。そして彼も若くしてピストル自殺したらしい。
この父親は、息子全員がプロレスをやってくれた時点で満足するべきだった。

本作はもちろんプロレス映画だが、本質としては子育て映画とも言えるかもしれない。
6人子供がいて、うち3人が自殺している異常な状況は、明らかにプロレスに対する父親の過剰な圧力と、母親が神の名のもとに実質それを傍観していたことが原因の一翼を担っている。
かといって彼らが極悪人だとも思えず、フォン・エリック兄弟は心から互いを思いやる素晴らしい関係性を築いている。
よくぞこの親の元で、(少なくとも晩年までは)すくすくグレずに育ったものだ。
子育てに正解はないが、兄弟で唯一存命のケビンが息子たちに「男らしさ」を解体される場面で、家族の未来がよりよくなることを願わずにいられなかった。

フォン・エリック兄弟が仲良く世界6人タッグ王座を取ったあたりから、坂道を転がるように「呪い」に襲われていき、絶望感が大きかった。
幸せなシーンの最後に「不幸の予感」が散りばめられたあと、急に場面転換して決定的な悲劇が突きつけられるのが刹那的で恐ろしい。

私が勝手に冴えない男のミューズだと思っているリリー・ジェームズが、この映画の数少ない救いである。
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