九月

さかなのこの九月のレビュー・感想・評価

さかなのこ(2022年製作の映画)
4.7
さかなクンという実在する人物の半生を描きながらも、どこかファンタジーのような雰囲気を纏い、それでいて不意に現実感が突き刺さった。
気持ち良くプカプカ海に浮かんでいたら、急に水の中で冷たさを感じてドキッとすることがしばしば…というような感触だった。

のん演じるミー坊が、大好きなお魚を中心に生きていく様子を幼少期から、学生、社会人になってからと見守って、周りの人たちとの関わりや起こる出来事に泣いたり笑ったりした。
好きを貫くのもそれを応援し続けるのも、決して簡単なことではないけれど、その先に待っている温かくて優しい世界に思わず込み上げるものがあった。

「好きに勝るものなし」って本当にその通りで、それを地で行くミー坊が本当に眩しくて心から羨ましく思えた。
自分に置き換えて、好きなことをそこまで好きか?とか、どこまで突き詰められるのか?とか考え始めると、ミー坊には遠く及ばないし、皆が皆ここまで突き通せる訳でもないと思ってしまう。でも、あの「さかなクン」の姿を思い浮かべると、どこまでも説得力がある。自分の好きな物事や人とだけ関わって生きていくことはできないかもしれないけれど、何も、それ以外のことに振り回されすぎる必要はないのだと思える心強さがあった。

とにかく出てくる人たちと、それぞれの再会シーンが大好き。
どう見てもミー坊とは反りが合わなさそう、と思ってしまうような人物とも打ち解けてしまうのがすごい。驚くほど根は良い人しか周りにいないようにも見えたけれど、きっとミー坊から見れば誰も悪くは映らないというのもあるのだろうなぁ。

公開してから見逃し続けていたことを残念に思っていたけれど、ここ最近、頭や心が疲れ気味だったこのタイミングで観られて良かった。難しく考えすぎずに物語の進行に身を任せ、とても癒された。
九月

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