みかんぼうや

さかなのこのみかんぼうやのレビュー・感想・評価

さかなのこ(2022年製作の映画)
4.2
沖田修一監督がさかなくんの映画を創ってくれたことに大感謝。沖田作品の積み上げられてきた穏やかで温かく優しい作風と、さかなくんのキャラクターやお母さんの海のように広く深い愛情が最高の形でマッチしていて、沖田作品では「横道世之介」に次ぐ、期待以上に面白い作品でした。泣かせにくる作風ではないですが、私は色々と思うところあり、比較的序盤から結構涙腺ゆるみっぱなしでした。

実は、以前、仕事で発達障害の子たちの教育やサポートに関わっていたこともあり、さかなくんとお母さまの間のエピソードや教育方針等は、自叙伝発表時の記事か何かで読んで非常に感銘を受け、大変好感を持っていました(さかなくんは自ら自閉スペクトラム症を公表)。

一方で、本作がリリースされた時、主人公の性別が異なることと沖田監督のちょっとゆる過ぎな作風(好きなんですけどね)から、やや不安を持ったのも正直なところで、内容的にとても気になる作品ゆえに「果たしてちゃんと作品の中に没入できるだろうか?」「興味ある内容で期待値が高すぎることで、かえってガッカリしないだろうか?」という思いもありました。

が、作品開始直後の「男か女かは、どっちでもいい」という沖田監督による高らかな宣言と、のんの素晴らしい演技によって、その不安は杞憂なものとなりました。終わってみれば、「のん以外に誰がこの役を演じられただろうか?」と思うほど、役と演技がピッタリはまっていたと思います。

内容は、沖田監督お得意の人間ドラマらしいコメディックファンタジーなので、好みは出ると思います。が、さかなくんのパブリックイメージを考えると、シリアスな自叙伝的な内容よりも、この沖田作品のゆるさが着地点として一番合っていると感じました。さかなくん自体が、人間味に溢れるというよりも、どこか空想性のあるキャラクターなので、沖田作品の空想性と見事に方向が合致したのでしょうね。

序盤に登場する「ギョギョおじさん」あたりも、完全に沖田監督の遊び心全開ですが、それを某人物に演じさせることで、さらに空想性を高めつつ、一方でさかなくん自身の今の思いを内省化しているようにも見えて深さもありますし、こういうちょっとした遊び心溢れる見せ方が沖田監督は本当に巧いです。

ギョギョおじさんという空想キャラが序盤に登場することで、その後の色々なエピソードも、「そんなバカな!」とか「これも空想ね」なんて思いながら、いい意味で気を抜いて適当に観てしまうわけですが、後で解説等を読んでみると、その大半が実は実際に起きていたことで、大小脚色はされていますが、それでも、「さかなくんの“大好き”が、周りの色々な人を動かしたこと」に驚きとともに感動しました。

と、しのごの書きましたが、結論として言いたいこと。
自分が大好きなものを追究し続けることって素晴らしい!そんな自分の好きを突き詰めている人って本当に魅力的!
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