教授

夢の教授のレビュー・感想・評価

(1990年製作の映画)
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改めて「問題作」だなぁと思う。
なんと生々しく瑞々しく、今時の言葉で言えば「エモい」作品。

僕は当初全8話のオムニバス作品だと認識していた。しかし、実は本作は一本120分の一貫した物語なのではないかと思う。

そして各エピソードを貫くテーマというのはズバリ「死」である。
死生観自体を複合的に描くために1話約10分程度のシンプルな話の中に一人の人間の一生ぶんの夢の中から「死の物語」の変遷を辿ってみせた。

1話には幼心の母という絶対的な愛の喪失の恐怖と初めて意識する死。
狐に殺されてしまうのではないか、死んでお詫びをしなければならないと短刀を渡される、などと衝撃的なエピソードで、始まり虹の下を目指す一面の花畑。
これは第8話に繋がっている。

2話は初恋と自我の目覚め。そして大人たちの世界を垣間見る少年の視点と自分の意思とは違ったところで何かが奪われていくという死のイメージが桃の木に集約されている。
刈り取られた桃の木に連なる現実の不条理と自然というものが死んでいくというイメージ。

3話は青年になって、死と隣合わせの時に、煌めく、死への誘いになんとしても打ち勝つという物語。
4話は戦争にはいかなかった黒澤の、青春を戦争に費やして虚しく死んでいった人間たちへの想い。戦争だけでなく戦争のように映画を撮り続けて来て疲弊し失ったものへの想いとそれらへの決別のメタファーがあると思う。

5話は憧れのヴァン・ゴッホに出会い。到底辿り着けぬ至高の芸術への憧れと、その自滅的なゴッホの生き様と美しいものに魅せられながら死んでいくゴッホへの想い。

6話と7話は最終的に文明が人間の愚かさで崩壊していく世界の終わり。

ここまでの構成で幼年期に出会うイメージとしての死が人生のさまざまな経験によって、夢の中がどんどんシビアになっていく。

そして、当時の黒澤明の「死は痛みではない」という結論。
ここで、黒澤明は到達する。
さまざまな苦境の中でサヴァイヴしてきた黒澤明の懺悔と失ったものも、それでも映画が撮りたいという想いと、

その中で「死は痛みではない」失ったものの苦味を噛み締めながら、そこに行きたい、という強い祈りと願いと壮絶さに感動した。
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