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夢のKSatのレビュー・感想・評価

(1990年製作の映画)
2.4
黒澤が見た、「夢」。

とは名ばかり。黒澤の「主張」。

「世界のクロサワ」がどんな夢を見たのか気になって観てみたらまさかまさかの黒澤から説教を喰らうという、実に厭な映画なのだ。

シンプルに「夢」といえるのは多分最初の狐の嫁入りの噺くらいで、後の噺は、「雪あらし」と「鴉」はちょっとしたファンタジーだが、例えば「桃畑」は環境保護、「トンネル」は反戦、「赤冨士」と「鬼哭」は反原発・反核、「水車のある村」は文明批判を訴えていて、しかもどれも説明台詞が過剰に過ぎる。

漱石の「夢十夜」よろしく毎回挟まれる「こんな夢を見た」というテロップに対して、「本当にこんな夢を見たのか?」と逆に聞き返したくなるわな。

しかし、もちろん夢らしさもある。

最初の噺は子供時代にありがちな理不尽な体験と夢の不条理が噛み合った作品で、さあこれからというところで終わる具合も実に夢らしい。

「赤冨士」の不条理な世界の破滅は妙に怖いし、原発が爆発して真っ赤になる空のビジュアルはちょっと特撮映画みたいだけど、確かにインパクトがある。

だが、個人的には「トンネル」のミニマリズムが気に入った。どこともつかぬトンネルを抜けたら、かつて戦地で死んだ部下達が青い顔をして隊列で現れる、というシンプルながらもマジックリアリズムらしい噺だ。

望遠レンズの引きの画と寺尾聰の横からの寄りの画ばかりのシンプルなカット割でここまで楽しめるという意味では、スコセッシのゴッホや安っぽい合成に頼りっぱなしの「鴉」より素晴らしいと思う。

ラストの「水車のある村」はヒューマニズム溢れる楽天的な死生観はいいし笠智衆の演技も良いが、肝心のその貌を茶色く塗っていてちょっと気持ち悪い。なぜそんなことをするのか。
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