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雪之丞変化のMASHのレビュー・感想・評価

雪之丞変化(1963年製作の映画)
4.0
長谷川一夫の300本記念作品ということで、大映が総力をかけて作った作品。当時の大映の大スターたちを集め、更には監督は市川崑というまさにオールキャスト。そして出来上がったのは日本映画の中でも非常に特異的な、とてもオールキャスト映画とは思えないシュールリアリズムを徹底した作品だったのだ。

まず多くの人が不自然に感じたであろう長谷川一夫の年齢と雪之丞という役のギャップ。いくら顔が美しいとはいえ、このとき彼は50歳を過ぎている。僕も最初は正直キツいかなと思っていたが、これが驚くほどに雪之丞という役をものにしているのだ。1935年に彼が主演で映画化されているのだから当然ではある。だが、仕草の一つ一つに表れる女性らしい柔らかさ、そして時折見せる仇討ち者としてのギラリとした鋭さは一度演じたからといって出せるものではない。雪之丞という人物が乗り移ったかのような、長谷川一夫の役者としての集大成を見ることができる。

そしてそこに組み合わさるのが市川崑による徹底的なモダニズム。横に長いまさに歌舞伎の舞台のような画面の中で、真っ黒な背景に俳優だけがポツリと浮かんでいたりと無駄なものを一切映さない。舞台をそのまま持ってきたような横からのショットにはびっくりするが、同時に役者の顔のアップや刀へのライトの当て方など映画でしかできないこともやってのけている。まさに舞台と映画のハイブリットになっているのだ。

映画としては正直話がどこへも繋がらないキャラが存在感を放っていたりと、今観ると不自然なところが見受けられる。だが、映画そのものが不自然な形をとっているためそこまで浮き立ってはいない。この映画のある意味贅沢な画面の使い方を見ると、この頃の俳優にさほど詳しくないであろう海外の人々にも評価された理由が分かる。大映の時代劇の中でも最も豪華かつ、引き算の美学に徹したこの世に一つしかない映画だ。
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