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“それ”がいる森のドントのレビュー・感想・評価

“それ”がいる森(2022年製作の映画)
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 2022年。正気か? 福島の山あいにある小さな村、ミカンを栽培して生活している男の元に東京から息子がやって来る。母親とケンカをしたらしい。転校を済ませた初日、早速できた友達と山の森へ分け入る息子。しかしその森には……! ※以下、“それ”は「アレ」と呼びます。
 アレが本格的に出てくる前、アレに関わる某物体が山中に、まったく何のてらいもハッタリも匂わせもなしにデェン、と画面に現れる。アレの正体はある程度絞りこんでいたものの、この堂々たる出現に一瞬意識が遠くなり、「ちょっと待って下さいよ!!」と叫んで立ち上がりそうになった。段取りとか心構えがまだだったというか、あまりにしれっと出たので動揺したのである。
 それから「アレ」が現れてアレコレやっていき、何というかそのアレによるアレコレが令和、2022年のスクリーンで繰り広げられていることに強い衝撃を受け続けた。もしかすると宣伝で伏せるのが前提だったのかもしれないが、「アレがねぇ……アレコレするんですよ……」という企画を通したその心意気は称賛したい。
 心意気は称賛するけれどそれはそれ。その他がまるでなっておらず、演出とか撮影もムッとくるばかりの薄さで、それ以上に脚本がまるでなっていないというか、説明台詞やド酷い言い回し、不要な回想とかとにかく全てが貧しく、へばりついた不要部を削れば75分になったはずである。
 そこにたとえば「こどもの世界感覚」「アレの恐怖」「対アレのアクション」「根性を見せる子供」とかを足せば、心意気と響き合ってそれなりのものになったかもしれないのだが、全然そうはならなかったので、「2022年にアレを!?」という驚きだけが私の心に残った。というかクライマックスの2ヶ所が完全に断絶しているのには呆れ果てた。そこはこう、相葉くんがウオォーッ!とブン回さねばならんのではないか?
 というか2022年にアレをやるにはこの監督も脚本も「信仰」が不足しているような気がするのである。これはいるんだぞ! いる! 本当にいる! 福島にいる! コワイ! そう思わせる凄味が伝わってこない。役者陣はそれなりに頑張っていた気もするけど、役者を立たせるのは監督と脚本なのである。息子役の子の綺麗さもよかったが、太った子、あの子は将来役者として大成すると思う。
 好意的に想像するとこれ、元はジュブナイルみたいにやりたかったのではないか? 学校を舞台に、『学校の怪談』のように……それが資本主義のせいでこんな形に……? ともあれまぁ、これ以上擁護する気持ちは起きない。何も知らないで観に行ったので色んな意味でビックリした。そこだけは好ましかった。
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