ドント

あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。のドントのレビュー・感想・評価

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 2023年。将来に希望が持てず自暴自棄になっている女子高生・百合はある日、母親と喧嘩をして家を飛び出す。行くあてもなく山の穴で夜を明かし、起きてみるとそこは1945年6月の日本。知り合った青年と奥ゆかしく深い仲になるが、彼は特攻隊員だった……
 若い人向けの涙々の感動映画であるものの、絶妙の匙加減でもって愛国惑溺映画とはなっていない。言ってみたら『ランボー』だ。ランボーはベトナム帰還兵であるが、国や軍に責はあってもランボー本人はいわば被害者とも言える。でも彼には戦って役に立ちたい気持ちがある。その気持ちはありがたい。しかし彼に無理をさせている奴らがいるのも事実だし、戦争はやらねぇ方がいいという思想は動かない。
 本作は感動映画でありながら、そういう複雑さを抱えたままで話を紡いでいく。主人公の父親は溺れている子供を助けて自身は死んでしまっている、という割りきれない背景が、特攻隊員の立ち位置と響きあう。この設定は映画オリジナルで、危うい所に落ちかけている気もするけれどうまい脚色だと思う。
 町並みや服は小綺麗にすぎるし、主人公の働く店に他の客の姿がないなど広がりがないあたりに予算の限界を感じるが、孤児の汚れ方や空襲シーン(ちゃんと死体も映る)など「ここ」という点は外していない。照明ものっぺりとせず陰影が濃いあたり好印象だ。脱走兵とやりとりをするのが「橋の上」という細やかさもある。手の届かぬ箇所は多々あれど、できうる限り丁寧にやろうとしているのがわかる。
 百合=福原はやさぐれから悲恋まで達者にやっているし、彰役の水上は演技がぎこちないものの目力があるので覚悟完了した兵士の顔をしている。他に上手いなぁと思ったのは通いのお手伝いの娘と、関西弁の青年。
 これら役者の頑張りや丁寧な仕事ぶりに感心の気持ちは湧く。が、この内容で110分越えは長いと思う。もう少しピシパシ刈り込んで短く濃くしたらもっとよくなったのではないか。とまれ「反戦平和」は守って美化しない、しかし冷たく割り切ることもしない、と同時に感動・泣かせもやる、さらにこれらを戦線を広げずミニマムな形で描いている。若い人にも呑み込みやすく、バランスのとれた作品だったと思うのだ。
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