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ザリガニの鳴くところのhynonのレビュー・感想・評価

ザリガニの鳴くところ(2022年製作の映画)
3.9
家族に捨てられ、世間に見放された私に、自然が生きる術を教えてくれたーー。

一時期、ネイチャー系のドキュメンタリーをよく観ていた。
観るたびに、自然界の驚異的なバランスや生き物の生態の巧妙さ、自然の美しさ、厳しさに心を動かされ、畏敬の念を感じたものだ。

体の弱い子グマを足手まといになるからと何度も追い払い、捨てる母グマ。
ひとりでエサを取れず痩せ細っていく子グマ。
その子グマを容赦なく狙う捕食動物。
そしてそれらを目の前にして、「つらくて見ていられない」と言いながらもいっさい手出しをしない撮影スタッフ。

それらは悲しく残酷であると同時に、潔く、美しくもあった。

劇中でカイラが言うように、そこには善も悪もない。
それは単なる自然の営みなのだ。

自然は厳然としてそこにあり、俗世間とは異なる法則に従って淡々と流れていく。

決して扇情的でドラマティックなサスペンスではなく、スリルや謎解きの点では物足りなさもある。
だが、自然や人間を丁寧に描き、「人間とは」という根源的な問いや、普遍的な摂理を感じさせる映画だった。
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