みりお

島守の塔のみりおのレビュー・感想・評価

島守の塔(2022年製作の映画)
4.5
完成披露試写会にて鑑賞🌟
五十嵐監督とメインキャスト4人も登壇してくださり、なんとも豪華な空間でした✨
五十嵐監督、初めてお会いしましたが、本当に本当に熱くて強い方で、思いの丈が溢れてくるような言葉の紡ぎ方に、上映前からうるっときてしまった🥺
本作は、コロナ禍が始まった春に撮影開始し、1年8ヶ月の撮休期間を経て、奇跡的にチームが再集結して完成したそうです。
そういう場合ってそのままお蔵入りってケースも多いらしいんですが、あの監督さんだからこそ、みんながもう一度スケジュールを空けて集まってくれたんだな…と納得してしまいました✨

そして作品自体も、ほんっとうに素晴らしかったです。
主演の萩原聖人さんが、「"楽しんでください"とは言えない作品だけど、心して観てください」とおっしゃってましたが、確かに生半可な気持ちでは観ることができません。
五十嵐監督が「沖縄の方たちもこれを観るんだから」と、細部のリアリティにこだわり抜いて作ったそうで、目を背けたくなるような描写の連続。
でもそれは沖縄の平和祈念資料館で読んだ内容、そのまんまで、語り部の声や手記をできるだけリアルに映像化しているなと感じたので、やはりあれこそが現実だったのだと思います。

狭いガマ(塹壕)を取り合って、日本兵が沖縄の民間人を射殺したという史実は、平和祈念資料館で読んだことはありましたが、やはり映像で観ると辛くてしんどくて…
誰しもが追い詰められていた極限状態だったのだろうけど、やはり許せない。
兵士とは、国を守るためにいるんじゃないの?
国を守るとは、すなわちそこに暮らす人を守ることなんじゃないの?
そんな怒りがふつふつと身体の中から沸いてきて、この地上戦は軍の判断次第で、もっと被害を抑えられたんじゃないかと、思ってしまいます。

でもそんな悲惨な歴史の中で、ただただ民間人のことだけを思い奔走した2人の官僚に、本作はフォーカスを当てています。
沖縄への米軍上陸は必至と見られていた中で沖縄県知事の打診を受け、「誰かがどうしても行かなならんとあれば、言われた俺が断るわけにはいかんやないか。俺は死にたくないから、誰か代わりに行って死んでくれ、とは言えん」と言った島田叡県知事。
巡査として勤務しながら明治大学夜間部に通った苦学生であり、沖縄県民の県外疎開が閣議決定されたときも、警察部長として先頭に立ち県民の疎開を促進した荒井退造警察部長。
沖縄地上戦が激しくなり民間人が島内に取り残されていく中、彼等は実に20万人もの人を避難させ、自身は戦火の中に散ったそうです。
ちなみに現代に至るまで、お2人の遺体は発見されていません。

彼等だって、民間人のフリしてさっさと逃げることもできたはず。
もしくは県民を盾にして、「まだ闘える。武器を持て」と指示することもできたはず。
でも島田県知事と荒井警察部長は、一人でも多くの県民が生きながらえるよう、退路を必死に守っていました。
「お国のために死ぬことが何よりも偉いこと」と、国が率先して洗脳していた時代に、「生きろ。ただ生きてくれ。生き残ることに意味がある」と語るのは、本当に勇気がいることだったと思う。
けれどその言葉を有言実行してくれたことで、数十万人もの人が命を救われました。
そしていまも沖縄には、島田県知事と荒井警察部長に救われた命が、代々と受け継がれていっているはずです。

平和祈念資料館を訪れたとき、ぎりぎり海の際で、海の向こうを見据えるように建てられていた島守の塔を見ました。
そこにお2人の想いが込められていると思うと、改めてあの場所を訪れたくなります。
今回初めて知りましたが、20万人もの民間人を逃したのち、2人が塹壕をあとにして消息を絶った日は、1945年6月26日だそうです。
たまたま私自身の結婚記念日だと知り、偶然とは言え運命を感じました。
「いつかの結婚記念日に、この島守の塔をもう一度一緒に訪ねようね」と、旦那さんと約束できたのも、本当に心に刻まれる思い出となりました。
(そして期せずして815Mark目…これまたご縁を感じる)


【ストーリー】

第2次世界大戦末期の1945年。
沖縄が戦場となる危機が迫る中、知事として本土から赴任した島田叡(萩原聖人)は、自分が来る以前から県民の疎開に尽力していた沖縄県警察部長の荒井退造(村上淳)と共に県民の安全確保を目指す。
だが4月に入るとアメリカ軍が沖縄本島に上陸し日本軍との間で激しい戦闘が行われ、住民を巻き込む凄惨な地上戦へと突入。
島田は住民を追い詰める軍の指令に苦悩しながらも、荒井と共に県民の命を守るために奔走する。
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