かすとり体力

EO イーオーのかすとり体力のレビュー・感想・評価

EO イーオー(2022年製作の映画)
3.7
「ロバ」が主人公?のすんげえ風変わりな映画。

ロバのEOが偶然に翻弄されながら続ける放浪の旅と、その過程での様々な人間との出会いを通じて、人間社会の愚かさや滑稽さ、はたまた温かさを描くという一種のロードムービー。

「運命に翻弄される無垢な存在を通じて人間の愚かさを描写する」という構成から、『異端の鳥』を想起したが、あちらよりは少しマイルドな印象(あっちはドエクストリームなので、そりゃそうか)。

あらすじからも分かる通り非常にアート映画然とした作品につき、面白かったかと問われるとさして面白くはなかったというのが正直な感想になるが、そもそもが奇天烈な作品であるのとテンポが良いことが幸いして、ずっと興味を持続させた状態で観ることが出来た。

一点、当作品の見方として、ロバのEOを「純粋な存在」と認識し、EOの目線に人間的な思考を重ねて見るのは、それはそれで人間のエゴだよなと思ったのはある。
(若干そういう観方に誘導するような演出だったように感じたので敢えて言及)

私が小学生くらいの頃、『世界まる見えテレビ』の世界の面白CM特集かなんかで、以下のような海外CMを紹介していた。

温かい家族の長い年月を通じた団欒の様子と、その横に常にある扇風機。柔らかい音楽が流れて、扇風機を含めて家族が長い期間、幸せな時間を共有してきたことが描かれる。

そんな中とうとう、家にエアコンが導入される。扇風機は家の外に出され、音楽も物悲しい曲調に転換。頭を下に向け、うつむき加減で雨にそぼフラれる扇風機にカメラがゆっくりズーム・イン。

観ているこちらも、どうしても「可哀そう…」という気持ちになって来る。

そんな中、画面の横っちょからド派手な人間の顔がグっと出て来る。そして彼が言うのだ。

「ねえみんな!今、この扇風機が可哀そう、って思わなかった?でもね、扇風機はモノなんだよ!扇風機に感情はないの!そんなことも忘れちゃったの?」

そしてCMは終了。私は図星のところを指摘されて「めっちゃ恥ずかしい!」と思ったのを覚えている。そう、これはエアコンのCMなのであった。
20年くらい前の記憶につき齟齬もあるだろうが、主旨はこんなことだったと思う。

本作を観ていて、このCMのことを強く想起したので長々と記述した次第。

どれだけ誘導されようとも、EOはロバ。
ロバに思考がないとは言わないが、少なくとも人間の思考を無自覚に彼に重ねることに、私には抵抗がある。

特に本作、作品の最後に「我々は動物を大切にしています」的なメッセージが提示される。そうであるならば、なおさらEOに「純粋な人間」的な視点を重ねるような暴力的な行いは、避けたほうが良いと考えました。

あくまでも、「運命に翻弄されるロバ」という仕掛けを通じて「剥き出しの人間性」に思いを馳せる、というところで留めておくのが良いんだろう。
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