しょうた

ヨーロッパ新世紀のしょうたのレビュー・感想・評価

ヨーロッパ新世紀(2022年製作の映画)
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日本語字幕が言語によって色分けされる映画を初めて観た。即ち、ルーマニア語、ハンガリー語、その他英語等。複数の言語が共存し飛び交う東ヨーロッパの地方(トランシルヴァニア)の現状。だが、それは複数の人種、民族、宗教観が存在することでもあり、地域の葛藤・軋轢は避けられない。クライマックスの集会場のシーンを観ながら、『福田村事件』の村人らによる殺戮に至るシーンを連想した。これがヨーロッパの今の現実。
主人公が英雄でも善人でもない(むしろダメ人間)ところが、妙にリアルな映画だった。
(以下、ネタバレあり)
圧巻は、森での出来事から話せなくなってしまった主人公の息子が口をきくシーンだった。
「パパ、愛してるよ。」鳥肌がたった。
かつて森で目撃したのと同様な最期を遂げた祖父。その遺体を木から降ろした主人公に寄り添いながら息子が口にした一言。たぶん彼は、父親が絶望を抱えて生きていることも、父親なりに自分を愛していることもわかっていた。それはたぶん言葉にならないところで。だから、彼は父親も祖父と同じ最期を選ぶのではいかと怖れたのだ。深い思いからの言葉は心に留まることなく、声となり発せられたのだ。
一方の父親は、妻はおろか愛人にも「愛してる」とは言えない男だというのに。
その息子のセリフはなぜかピンク色(その他の言語)だった。父親は白色(ルーマニア語)で話すのに。そこにもヨーロッパの今が反映されているのか。

追記
邦題はロッセリーニの「ドイツ零年」にヒントを得たか。作風はどこか亡きアンゲロプロスを思わせる。
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