僕は運命論者ではないが、この映画とここで出会うか?と偶然の選択が決まっていた運命のように思えることもたまにある。
本作は、Netflixからたまには選ぶか!と何気なくチョイス。こんな名優が出ていることも観るまで知らなかった。
この仰々しいタイトルの意味と運命みたいなことはまた後で書きます。
監督ジェームズ・グレイの自伝的作品だということだ。
1980年ニューヨークに住む12歳のポールは学校でも家庭でも居場所がない。絵が好きで授業中も描いていて先生に取り上げられてしまう。友達にはユダヤ人であることでからかわれる。
家でも父や母もポールに心からの共感は示してくれず、トラブルが続く。
そんなポールの唯一の理解者は祖父のアーロン、ここで名優アンソニーホプキンス!彼が孫ポールに語る深遠なる言葉は、
ポールのみならず観客さえも惹かれてしまう。
ポールの祖先は、ナチスの迫害を逃れ渡米してきた移民なのである。
彼らの家族自体がユダヤ人として差別の眼で見られてきたのに、祖母は「黒人の行ってる公立はダメ」などと口にする。
そんなポールが学校で心を許しているのが黒人のジョニーだ。反抗的な態度と悪さから彼は学校を追われてしまう。
ポールは有名私立校に転校させられる。
制服を着て規律正しい生徒たちだが、マイノリティへの蔑みを持っている。ポールに話しかけてきた感じの悪い生徒は、フレッド・トランプという名前だ。(そう、ドラルド・トランプの父親だ)
学校の朝会で自然発生的に「レーガン!レーガン!」と連呼が響き渡る。
頼りの祖父が亡くなり、ポールは喪失感に包まれる。そんなポールに対して、亡き義父について語るシーンが本作での1番感動する。
ポールたち家族が「アルマゲドンタイム」を強烈に意識する日がやってくる。
ジミー・カーターを破り共和党のロナルド・レーガンが大統領選に勝利するのだ。
ポールの祖母は「核戦争になるわ。」と呟き、一家は沈痛な空気に包まれる。
本作は、よくある少年の自立への目覚め、成功を描いたのでも、家族との思い出を懐かしんでもいない。
祖父以外の家族はマイナス面もしっかり伝えている。そして、最後はポール自身についても、勇気がなくできなかった大きな後悔で終わっている。
時は2025年、本作でポール一家が心配したアルマゲドンは起きなかったが、黒人が大嫌いだった実業家の息子が父から受け継いだ差別思想を商売取引(ディール)に利用して大国を支配しようとしている。そして、世界は弱者や多様性を踏み躙ることが称される第2のアルマゲドンがやって来そうだ。ポールの祖母の心配が本当に起こるかもしれない。
勇気がなかったことの痛い思い出とポールはその後どう向き合ったのか。
ひょっとしたら、後年自伝的な映画を作り、自戒の念と表したのかもしれない。
アルマゲドンを阻止するのは、宇宙飛行士やマッチョなブルース・ウィリスではなく、小さな勇気の積み重ねなのかもしれないなって、この映画から感じ取った。