尾崎きみどり

クライムズ・オブ・ザ・フューチャーの尾崎きみどりのレビュー・感想・評価

3.4
人間が進化し、痛みの感覚がなくなった近未来。臓器を新たに産み出し続ける主人公(男)とパートナーの芸術家(女)が、臓器摘出手術をショーとして披露している。そこへプラスチックを食べる子供がいると知らされ…このあらすじだけで大量のハテナが頭の中を飛び交いそうな作品。正直言って話の前提がぶっ飛んでるので、方向も着地点も予想出来ない中々の芸術作品。音楽も映像も良い感じにかっこ良くて、けれども何をやってるのかさっぱり分からない。しかし不快ではなく映画として楽しめたのはカメラワークや画面の美しさのお陰だろう。
身体にメスを入れたり突き刺したりする場面が多々あったが、結構痛そうなのに淡々としているのでグロく感じなかった。ベッドの上でお互いを切っているシーンは官能的ですらある。手術機械の蛙型リモコンやご飯を食べる時の椅子やらは醜悪で有機的な嫌悪感のある独特なデザインになっているが、全体的に無機質な雰囲気なのでアクセントとして良かった。最初は食べにくいやろそれって思ってた食事椅子。よく考えてみたら食べる気にさせなくしてたのかもと思ったら絶望的な世界観が見えた。一番好きなシーンは踊る耳付き人間。金カムの江渡貝君が作りそうなヤツが踊ってる姿にEDMがマッチしてスゴくカッコ良かった。
作中で登場人物が宇宙を口にしていたが、そのキーワードでクローネンバーグ監督の過去作品であるクラッシュを思い出した。当方は残念ながら過去の監督作品はこれしか観たことがないが、あれも原作からして外的宇宙より内的宇宙(身体)を追求する話だったよなとふと思い出した。一番神秘的で分からないのは自分自身。監督は未だ映画を通して追求しているのだろうか。
自分は、ある種の芸術は人間が自身やモラルや社会的活動に対して行うアンチテーゼと考えているので、それを人間が抗えない進化と結びつけているのが面白かった。あと、私的の監督のイメージは身体を弄くり回すのが大好きな変態のおじさんだったので、今回もひよらず変態だったので良かった。ただR12は止めとけ。どう繕ってもお子様に助言出来ない内容だよ。
最後のオチは禅の考案めいていて、観た瞬間には得心出来なかった。つまり、新たな進化を手に入れたって事なんでしょうか?
尾崎きみどり

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