尾崎きみどり

12日の殺人の尾崎きみどりのレビュー・感想・評価

12日の殺人(2022年製作の映画)
3.0
冒頭で未解決事件の一つと明言されている。なので劇中の殺人事件は解決しません。個人的にはモヤモヤしたが仕方ないっすね。
本作は陰惨な殺人事件を捜査する刑事や被害者の関係者たちの心理描写を中心に描いている。
派手な描写はないが、捜査する警察の苦悩や、被害者の家族と親友の感じる悲しみや怒りが丁寧に扱われており、充分な良作であると言える。社会的構造の歪さにもさり気なく触れている点も良いと思った。
主人公の主任警部を始めとして、粒ぞろいの役者を揃えていて演技には申し分ない。特に印象に残ったのは被害者の親友だった。大切な友達を突然亡くした悲しみと怒りが入り混じった表現は素晴らしく、非常に心を揺さぶった。
この場面での台詞や表情は、被害者が生きて代弁しているように思えた。
人間は理不尽な目にあった時、心理的バイアスで合理的な説明を求めがちだ。物を盗まれたら防犯をしっかりしてなかったからでは、殺されたら被害者にも落ち度があったのでは、等々。罪を犯した側ではなく被害者側が責められるのもこの心理が働いているのだろう。悪いのはやった側である筈なのに。
犯人が捕まらなくても日常は続く。それが一層悲しく影を落とす。

全体的に認知バイアスの歪みが捜査を解決から遠ざけてるのかなと思った。当初は警察何してんの?としか思わなかったが。だって観てる限り証拠を拾われたり、簡単な現場検証しかしなかったり、数撃ちゃ当たるとばかりに容疑者を引っ張ってきたりめちゃくちゃだもの。入念な調査とは。だけどジェンダー的な認知の歪みもそうだけど、凝り固まった視点や感情からくる固執も真相から遠ざかっている一因なのかもと思い直した。
そう考えると3年後の描写も必要だったのかもしれない。唐突に時間が飛んだので驚いたが、新しい環境になると視点も変わるし事件に対する態度も改まる。これからもしかしたら解決に向かうかもしれないし、そうではないかもしれない。ただ前に進む為には必要な時間だったのだろう。
ミステリ的な作品ではないから気にしないでいいかもしれないが、事件自体は割と気になる。
そもそも本来憲兵隊案件なのに所轄警察案件になっているのも何かありそう。(考え過ぎ?)
人にガソリンをかけて火を付けるという異様な手口から犯人をプロファイルしたりはしないのかな。(なんとなく手口から移民のゴニョゴニョがあって上からゴニョゴニョでのアレかなと思ったりしないでもない)

2022年カンヌ国際映画祭選出作品なのだそう。配信でももう出ているが最寄りの映画館で上映していたので鑑賞。
流石能書きに負けない出来で観てよかった。私的にはフランス映画は当たり率が高い。向こうでも勿論クソ映画はあると思うが、どうやら日本海は超えられないようだ。母なる海に感謝しよう。(サメだけは海を渡れるようだがとりあえず無視する)
尾崎きみどり

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