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ヴィレッジのKUBOのレビュー・感想・評価

ヴィレッジ(2023年製作の映画)
4.0
今日は大好きな藤井道人監督最新作『Village』を公開記念舞台挨拶付き上映にて鑑賞。

主演「横浜流星」だから場内は95%は女性。だけど、本作の横浜流星は髭面で精彩を欠いた風貌。

『新聞記者』の松坂桃李、『ヤクザと家族』の綾野剛と、藤井道人監督は、作品毎に時を賑わすイケメンに、イメージとはかけ離れた役柄を演じさせ、それぞれの俳優は一皮剥けて実力派俳優へと成長するような印象を受ける。

本作でも横浜流星は爽やかな笑顔も、カッコいいアクションも封印して、おそらく相当にメンタルやられそうな役柄を熱演した。

舞台挨拶でも何度もその名前が出たが、本作は昨年亡くなったスターサンズの河村光庸氏が『新聞記者』『ヤクザと家族』に続いてプロデュースした最後の作品。

河村プロデューサーは常に社会問題に焦点を当てた作品を制作してきたが、「森友問題」「暴対法」と来て、本作では「ムラ社会」と「産業廃棄物の不法投棄」。

町の再生の切り札と思われたゴミ処理施設が、裏ではヤクザとグルになって産業廃棄物の不法投棄を生業にしていたという…

都会では考えられないムラ社会であるが故の権力と暴力による支配。

かつてゴミ処理場建設に反対して事件を起こし自殺した「優」(横浜流星)の父。

その父の起こした事件の咎を背負わされて、常に死んだような目をしてゴミ処理場で働きながら生きてきた優。

そんな優の前に、東京から帰ってきた「美咲」(黒木華)が現れた日から、優の日常が変わっていくにだが…

美咲が好きで、優にやきもちを焼くトヲル役の一ノ瀬ワタルがいい。こいつ本当はいい奴なんじゃないかなぁ? もうちょっと優の性格や環境が違ったら、誰か他にトヲルとタメで話ができるダチがいたら、きっと違ってたんじゃないかなぁ? ルックス悪いのわかってるけど、一生懸命美咲に振り向いてほしくて、不器用に接してるトヲルが愛おしく見えるなんて、一ノ瀬ワタル、いい役者だ。

また本作のキーになるのが「能」。村長(古田新太)の弟で刑事役の中村獅童は作中で歌舞伎ではなく能を舞うが、

随所にフィーチャーされる「能面」が、同じ顔なのに見る者の精神状態で表情が変わって見えるのはおもしろい。能面は見る者の感情を反映するのだろうな。

この中村獅童演じる刑事、大橋光吉は実は一番逃げてたキャラなんだろうな。きっといろいろわかってて、身内なんだから本当は自分がやらなきゃダメだったことを、優がやったんだから、ラスト2人のシーンでの光吉の心境はどんなもんだったんだろう?

『新聞記者』『ヤクザと家族』そして本作『ヴィレッジ』、藤井道人はハッピーエンドにしない。常に不条理だったり、やるせなさだったりを感じて幕を閉じるのだが、本作ではエンドロール後にもう一つメッセージがある。席を立たずに最後まで見てほしい。

「今まで見たことのない横浜流星でないと意味がない」by 藤井道人監督。

正直、重く辛い映画ではあるのだが、この横浜流星の俳優としての挑戦と、スターサンズ・河村光庸の最後のプロデュース作品への想いは、ずっしり重い手応えがあった。

*舞台挨拶に一言。「中村獅童うざい!」(笑)
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