りっく

ヴィレッジのりっくのレビュー・感想・評価

ヴィレッジ(2023年製作の映画)
3.5
霧深い山村の山腹にそびえ立ち、村を見下ろす巨大なごみ処理施設。24時間365日稼働している施設の煙突からは、絶え間なく煙が排出されている。

そこには美しい日本の原風景などもはや存在せず、ひたすら異様だ。霧と煙に包まれたこの舞台装置からも、本作の主題が「隠蔽」であると画で見て取ることができる。

村社会を舞台にした日本映画は数多くあり、因習的・閉鎖的な闇をミステリー仕立てで炙り出してきた。本作でも村だけでしか通用しない立場やルールにしがみつかざるを得ない人間たちの境遇を序盤で丁寧に描写する。

一方で、持続可能社会や生きるヒントがある村とPRすることで、その裏側に隠されている問題を「隠蔽」する体質は非常に現代的で、このジャンルをアップデートすることに成功している。

「隠蔽」の象徴となるアイテムが能面だ。素顔や感情を押し殺し、全員が同じ表情で同じ場所へ向かう能面の列の異様さは、まさに臭いものに蓋をし、問題を見て見ぬふりをし、思考を停止させる人間そのものだ。

だが、本当に恐ろしいのは、強姦されそうになった恋人を守るために、村長の息子にボコボコにされた横浜流星が、テレビに出演するために白塗りのメイクで顔の傷を「隠蔽」した、その不自然な顔だ。終盤で、傷を「隠蔽」するだけではなく、殺人を犯したことをも「隠蔽」していたという二重の意味を含ませているのも作劇的に巧みだ。

しかし、結局のところ各々の登場人物がこの村に固執しなければならない理由が弱いために、説得力に欠ける印象を受ける。犯罪者の息子というレッテルを貼られた横浜流星に対する周囲の陰口や、その後の手のひら返しもステレオタイプそのものでリアリティがない。能面の異様さには意味があるものの、能の演目そのものと物語がシンクロしていかないのも物語が表面的であると感じてしまう。
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