こなつ

愛する人に伝える言葉のこなつのレビュー・感想・評価

愛する人に伝える言葉(2021年製作の映画)
4.0
フランスを代表する名女優カトリーヌ・ドヌーヴとこの作品でセザール賞最優秀男優賞を受賞した演技派ブノワ・マジメルの共演。

監督は「太陽のめざめ」(2015)で、ドヌーヴとマジメルを起用し、カンヌ国際映画祭のオープニングを飾ったエマニュエル・ベルコ。

人生半ばで膵臓癌を宣告されたバンジャミン。母のクリスタルと共に一縷の希望を託し、名医として知られるドクター・エデのところに訪れた。

しかし、エデはステージ4の膵臓癌は治せないと率直に告げる。

こういう話になると、ただただ悲惨な病気との闘いを想像するが、この映画は違った。

「命が絶える時が道の終わりではない。それまでの道のりが大事」ドクター・エデの語る言葉ひとつひとつに説得力があり、医師として人として誠実な姿に心打たれる。

患者たちのためのタンゴの講演会や音楽によるセラピー、また過酷な現場にいる看護師たちの悩みを聞き、精神的な負担を和らげようとするミーティング。

全てが緩和ケアのお手本のような理想の形に見えてくる。

鑑賞後、ドクター・エデ役のガブリエル・サラが現役の癌専門医と知って、彼の演技は作られたものでなく、心の底から出ていた言葉なのではないかと、場面場面を振り返り、再び感動が蘇った。

日に日に弱々しくなっていくマジメルの渾身の演技、母として後悔と悲しみに打ちのめされるドヌーヴの気迫ある演技、見事だった。

人は誰しもいつかは死と直面する。そういう時が近づいてきたら、人生をどう整理し、誰に何を伝えるのか。
重い題材ながらも、決して悲しい気持ちにはならず、貴重な示唆を与えてくれたような素晴らしい作品だ。
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