しの

FALL/フォールのしののレビュー・感想・評価

FALL/フォール(2022年製作の映画)
3.4
座って映画を見てるだけなのにここまで手に汗握れるのか、という体験だけで元が取れる。『127時間』と同様、主人公が抱えるドラマを軸にスリラーが展開されていく。高所を捉えた映像とサバイバルのアイデアはもちろん、ほとんどホラーのような恐怖演出も満載。着地は疑問だが観たいものは観れる。

テレビ塔に向かうまでのシークエンスで主人公の課題設定と多くの伏線が張られており、それらを回収しながら様々なドキドキ展開をぶつけてくるので手際がいい。ここらで停滞か? と思うタイミングで今度はドラマ的なツイストを入れてくるので飽きさせない。何より高所の臨場感がある。ただ、人間を上から捉えたショットは序盤のシークエンスからすでに合成っぽさ全開なので、ここは残念。うるさい劇伴で煽りすぎな気もするし、意外とジャンプスケアが多い。とはいえ、『127時間』と違って心象表現はほぼ使わず、徹頭徹尾「塔」という舞台を時には美しく捉えようとする姿勢は良かった。

主人公のドラマについては、正直テンプレ感はある。シンプルなシチュエーションの映画なのでこれくらい分かりやすいもので良いとは思うけど。とはいえ、だんだん化粧は落ちて日焼けもしていき、心身ともに疲弊していく様をちゃんと迫真の演技とともに表現してくれるので真面目に観れた。

しかしながら、結末についてはわりと疑問。自分は主人公の父親もどうかと思ったのだがそこはスルーというか、むしろ肯定されてしまう。彼の「お前かと思った」の後にあのセリフで締めるのもだいぶ居心地が悪い。これではあのキャラクターが完全に踏み台でしかないではないか。

そしてこれを言うと主軸の否定だが、そもそも自死を選ぶ手前まで追い詰められた人が死の恐怖を味わうことで「生きたい」と願うって、かなりスパルタ療法だなと思う。しかもそこに恋人の真相の件が加わるので、トラウマの克服という論点ともズレてくるのは気になる。設定した課題と展開が不整合だ。だから締めのセリフにも「そんなに説教臭い話だったか?」とハテナが浮かんでしまう構成にはなっている。

とはいえ、これだけシンプルな設定で104分楽しめるスリラーというのは貴重だ。しかも高所の危険という物理的かつ本能的恐怖を刺激されるので、ジェットコースターに乗る感覚にも近いものがある。まさに閉じ込められる映画館で体験したい一本だ。
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