Bigs

空気殺人~TOXIC~のBigsのネタバレレビュー・内容・結末

空気殺人~TOXIC~(2022年製作の映画)
-

このレビューはネタバレを含みます



事件への興味はありながらも、中盤までは演出の緩さと話運びの雑さが気になってしまったが、途中からラストにかけては題材の強度と、それに応えるような熱量ある演出と展開によって、かなり見応えのある映画になっていた。

映画の出来や面白さ云々よりやはり現実について考えてしまう映画。
実際の事件の顛末や、現在の状況、映画ではどんな形で脚色していたのか、知りたくなる。

序盤は大仰な劇伴や、雑な話運びが気になってしまった。
父親が息子の病気をあまり知らないなんてあるのか、妹が遊びに来るが連絡しないでくるのか、妻が運び込まれた時すぐに駆けつけるわけではなく安置所にようやく駆けつけるのか、何の説明もなくちょっとした違和感が残る。
事件の元凶となる加湿器やその殺菌剤に気付く場面もドラマティックではあるものの、あまりロジックを感じられなかった。特に殺菌剤が原因であることは、主人公たち側からあまり明確な根拠が示されなかったような(共通して使っていたということくらい)。疫学調査でPHMGが原因とわかったので、殺菌剤にPHMGが入っているとその時点ではっきり示した方が飲み込みやすかったのでは(後からそうだとわかるが)。

ただ、途中からはそんな雑さはあまり気にならないくらい、元々の事件が酷く、その事実に腑が煮え繰り返る。

法廷モノとして二転三転する展開がわかりやすく且つ意外性もあり、その匙加減が絶妙で良かった。オーツーのナンバーツーは、所々の表情(シュレッダーとか)や、ちょっとした言い淀みから何かあるなと匂わせつつ、実は被害者の一人だったとわかる。協力を依頼した元検事はなんか怪しそうな雰囲気で、裁判が始まると裏切っていてこの事件でオーツー社長の次に醜さを露呈する。

大学の教授、「ヤバいもの作っちゃいましたね〜」という他人事のような嫌なリアルさ。他の専門家が出てくるかもと一度保留にする冷静さも怖い。

連想した映画。
『エリンブロコビッチ』、水にみせかけて原液を飲ませるふり。
『評決』、写真撮るところ。
『生きる』、縦割り行政のたらいまわし。

ラストは憤りと悔しさが滲み、同時に胸を打つ場面でもあるが、個人的には「被害者」と「そうでない者」の断絶がはっきりと見え絶望感が最も強かった。今回は製造元側に被害者がいたから立証できたわけで、そうじゃなかったらどうなるのか。あのナンバーツーは被害者になってようやくその立場の辛さが理解できた。被害者にならない限りその酷さはわからないから一向に是正されないという恐ろしさ、でもそれが現在も続いてるわけで。

グロテスクなまでに自己の利潤を追求する資本家・権力者。社長らのメーカー側、弁護士、虚偽に加担する学者、国会議員。国会議員は10年後も残ってるという絶望。責任逃れし非を認めない国側の普遍的などうしようもなさ。

自国内ではもみ消そうとし、他国の介入でようやく動く。米国人被害者の存在。他国基準では到底容認できない代物で、オーストラリアからはNG。社長は韓国系イギリス人。

ラストの展開は良いとして、ナンバーツーが仕向けて示談に応じた人はそれで自分を責めたのでは。あと民事訴訟が終わった後で借金により娘の医療機器を差し押さえられた人は主人公らの戦略に犠牲になったのでは。これはそのままだとかなり酷い話なので脚本は気を使うべきだったのではないか。

水俣病の話は当然出てくる。
前官礼遇という韓国司法の悪き慣習。(日本でも似たようなことはありそう)
味方になってくれた教授が昔容認するような資料を書いていたのは何故か。



——
実際の事件と比較するためのストーリーメモ。

急性肺炎で妻を亡くし息子も死の淵にいる医師。数ヶ月で肺が硬くなるという事象への疑念から、義妹の弁護士(元検事)と独自に調査を進め、同様の病気で家族を亡くした人たちへの聞き込みや、その現象を調査していた元医師への聞き込みを行い、動物実験・疫学調査の結果から、その原因が加湿器に使う殺菌剤(PHMGという物質を含む)であることを突き止める。
義妹や他の遺族たちと、製造元のオーツーに対し民事訴訟を行うが、依頼しようとした検事の裏切りや、大学での試験依頼、示談を進めていることから裁判は延期に。被害者遺族の一人は借金が原因でメーカーからの示談に応じてしまう。試験依頼をした大学はオーツーとは癒着があり、メーカーとの専属契約を条件に虚偽の試験結果を発表する。原告側は社会運動にも熱心な化学系の学者に証人を依頼するが過去の資料から証言をまともに取り合ってもらえない。裁判も進み、メーカー側の虚偽の試験報告には、客観性を持たせるために、原告の医師が立会人となり、試験方法・結果は問題なかった証言する。これにより民事裁判は終了し、原告側の遺族は打ちひしがれ、中には借金のために療養中の娘の呼吸機器も持って行かれてしまう人も。
そんな中、メーカー側のナンバーツーは社長に昇進したが、それと同時にニュースでは試験が虚偽であったことが証拠の映像とともに報道される。ナンバーツーは、彼も同じく妻と娘を殺菌剤によって亡くしており、腐敗した会社に対して罪を認めさせるために決定的な証拠を掴もうとしていた。民事訴訟ではダメで刑事責任を負わせないといけないと。結果的に企業の責任は追求され、主人公の息子は肺移植を行うことに。ラストはその10年後、行政の責任を問う場が設けられ、遺族たちの悲痛な訴えが映像で流れるが、国は責任逃れし、同じ頃国会前では遺族たちが私たちが証拠だと訴え続けている。
韓国では1000万個ほど売れ、死者は2万人ほどいた推定。
Bigs

Bigs