ワイルダー監督のフィルモグラフィの中では、相対的に評価が低い作品です。
要因は様々あると思いますが、私的には面白かったです。
一般的娯楽映画の水準から言えばはるかに上出来な作品だと思いますね。
主演に・ビング・クロスビーを迎え、ヒロインを、「レベッカ」のジョーン・フォンテインが演じる豪華版。
要所要所でクロスビーが美声を聴かせるミュージカル仕立てとなっております。
身分違いの恋、ありがちですよね。
だが、ワイルダー監督はこのありがちなストーリーに犬同士のラブストーリーをダブらせた。
才気といわずにいられないでしょう。
そして、この犬たちの名演技。
ビックリします。
この犬たちの演技を観るだけでもリピートの価値あり。
そんなに犬が好きという訳ではない私ですが、スミスの商売道具である黒い箱の上にキチンと座っている犬バトンズの姿は本当にかわいいです。
バトンズと雌犬シェラガーテのラブシーンもいいです。
そして蓄音機をのぞき込む犬・・・そう、あのメーカーを連想しますね。
そんな遊び心も面白い。
しかしワイルダー監督はこのコメディの中にもピリリとしたスパイスを忘れない。
獣医がシェラガーテの診察をするのに、フロイトの精神分析をクソ真面目に引用するところには、
フロイトに対する皮肉が込められていると思うし、
仔犬が生まれてくるシーンでは、君主政治による身分制度に対する厳しい批判と、その身分を守るための近親婚に苦言を呈している。
出生地オーストリアに対してのワイルダーなりの厳しいメッセージが込められていると思う。
ただ、ミュージカル監督としての彼の演出力はどうなのか。
チロルの山村を活かしたヨーデルの合唱シーンや弦楽器の演奏。
ビング・クロスビーの甘い歌声と、村人らのダンス。
・・・もったいない、どうもうまくない。
ワイルダー監督らしいたたみかけるような展開が寸断されたように感じてしまうのだ。
既存の音楽を効果的に編曲したヴィクター・ヤングの音楽が、スピード感のあるとてもいい効果を出していただけに惜しいですね。
ミュージカルシーンの演出はそのセンスによるものが大きい。
残念ながらワイルダー監督は向いていなかったようです。
それでも、娯楽映画としては上々の出来。
皇帝の舞踏會を観に来ている中年婦人たちのうわさ話で物語が進行していくあたりも、ワイルダー監督らしいです。
あと、邦題。
『皇帝舞踏曲』はThe Emperor Waltz の直訳なんですけど固いですね。
おかしなアレンジの邦題もどうかと思いますが、コメディ感がまったくない。
題名で敬遠してしまう観客も多かったのではないかなと。
本作の宣伝部さんにはちょっと考えてほしかったですね。