ナーオー

ハントのナーオーのレビュー・感想・評価

ハント(2022年製作の映画)
5.0
これが初監督って凄くない???

『新しき世界』や『ただ悪より救いたまえ』、そしてなによりも『イカゲーム』などのイ・ジョンジェが主演だけではなく監督と脚本を務めた作品。しかも本作が初監督作品。

とても評価が良いと耳にはしていましたが正直観る前は大体これくらいの映画なんだろうな〜 とたかを括っていました。しかし観た後だとこれか初監督とは思えない、堂々たる出来栄えに驚愕しました。

本作は1980年代、反政権派の学生などを容赦なく弾圧していた全斗煥大統領政権下の韓国が舞台。史実とフィクションを混ぜた作品なので当時の韓国の政治背景や事件など予め事前知識があった方が映画に入り込めると思います。ただし、知らないと難しいところもあるかと思いますが、知らないから楽しめないわけではない。僕もこの辺の歴史背景は映画を観た後で調べたことなので、歴史や政治に詳しくなくても全然問題なし。

また展開が非常に早く、ちゃんと観ていないと置いてきぼりになる映画なのは確か。何が真実か誰を信じればいいか、なんならちゃんと観ていても困惑するかも。

これはこの映画の不出来とかではなく、エスピオナージもの特徴だからです。
『裏切りのサーカス』や本作『ハント』と同じく基本はアクション映画でありながら本格的なエスピオナージ"諜報"映画だった『アトミック・ブロンド』のように意図的に話の掴みづらくしている。

その"分からなくなっていく"感じが心地よくなるかでこの映画の評価が分かれそうです。僕は全然アリです。

本格的なエスピオナージものとしても本作『ハント』は上出来ながら、アクションも素晴らしい。

特に映画が始まって大体30〜40分目にある本作の見せ場の一つの東京の大通りで繰り広げられるマイケル・マンの『ヒート』さながら銃撃戦。

車内からフロントガラス越しに銃を撃つ ってところなど『ヒート』を強く連想。

またここでイ・ジョンジェ演じる主人公が予備のマガジンも握りながらM16を構えて撃つ。弾が切れると握っていたマガジンをすぐにさす。そして撃つ の繰り返し。よく考えるとあまり見たことがない銃の撃ち方。こういう映画で初めて見る銃の撃ち方が1つあるだけで、その映画はもう満点!このリアルな銃描写もマイケル・マン映画に匹敵する。

当初は本当に日本ロケを行う予定だったけどコロナの影響で日本ロケを断念し、日本から運び込んだ車や時代背景に合った日本語の看板などを製作して撮影を行ったこともあり、日本ロケを断念したとはいえ、80年代の日本をしっかりと再現できていたと思います。

他にもなかなか容赦ない韓国諜報機関が行う拷問描写など80年代韓国の闇を隠さずに描いていたことも良かった。

またカメオ出演として『アシュラ』や『コクソン』のファン・ジョンミンが出演。正直、このキャラクターに必要とされる以上の不穏な存在感をファン・ジョンミンが無駄に発散しており、別の映画が始まったかと思いました笑

とはいえファン・ジョンミンらしい見事な怪演でした。

本格的なエスピオナージ映画にして、エンタメゴリゴリのアクション映画。これば初監督だとは到底思えない。細かい不満点などないくらいの堂々たる出来栄え。

イ・ジョンジェの底力を見せつけられる凄まじい力作でした。
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